光が唇をつけた場所
全身の力が抜けてしまった春奈を、光は抱きかかえた。
春奈は、泣き出してしまった。
「ごめんね、光君、とんでもないことしちゃった」
光は、答えない。
そのまま、春奈を抱き上げ、お姫様抱っこ。
春奈
「恥ずかしい、そんなの」
と言うけれど、泣きながら顔が赤くなる。
こんな年下の子に、しかも、さっきさんざん文句を言って組み敷いた光に「お姫様抱っこ」をされている、春奈は恥ずかしくて仕方がない。
光は、そんな春奈の声は無視。
そのまま、春奈をベッドまで運び、そっとおろした。
春奈は、ドキドキして仕方がない。
ベッドにまで運んでもらって、その上、光の顔が目の前にある。
「キス・・・してくれるのかな・・・」
「はぁ・・・どうしよう・・・」
「ついに?・・・」
「私で・・・いいのかな・・・」
さっきは、あれほど迫っておきながら、今は恥ずかしいとか、ためらいもある。
光がやさしい声をかけてきた。
「春奈さん、目を閉じてください」
春奈は、口が渇いてきた。
「やば・・・唇荒れてるかも・・・」
「光君との念願のファーストキス・・・」
「ついに・・・」
春奈は、心臓をバクバクとさせながら、目を閉じた。
「光君の顔が迫って来た」
目を閉じていても、皮膚感覚でわかる。
春奈は、身体の力が抜けてしまった。
「もう、したいようにして」
「光君にまかせる」
と、じっと光の唇を、自分の唇で待つ。
しかし、光の唇は、また別の場所だった。
「え?まぶた?」
「はぁ・・・」
「でも、気持ちがいい」
「右・・・左・・・」
「やさしいな、可愛いな、光君」
春奈は、うれしくて仕方がない。
その光の唇が、春奈から離れた。
また、光の声が聞こえてきた。
「春奈さん、おやすみ」
「変な心配しないでいい」
「一緒にいて欲しいの、嫌じゃなかったら」
光の唇が、再び春奈の左右のまぶたに軽く触れた。
「おやすみなさい」
光は、もう一度「おやすみ」を言って、自分の部屋に戻って行った。
春奈は、うれしいような複雑な気分。
「唇ではなく、まぶた」
「でも、気持ちがよかった」
「唇は・・・いつかなあ」
「追い出されないだけでも、よかった」
そして、思った。
「光君・・・いつかは、男女のことを知るのかなあ」
「そろそろ・・・かなあ」
「そうだよね、誰かなあ」
「・・・わたし?」
そこまで思い、春奈は、眠れなくなってしまった。