春奈の母美智子の厳しい言葉
母美智子の春奈への厳しい言葉は続く。
「そういうことをする場所もね、絶対リビングはだめだよ」
「ピアノのある場所とか」
春奈は、言葉に詰まる。
「マジ・・・リビングで、ピアノの前・・・」
しかし、そんなことを、母美智子に白状してしまえば、どれほと叱られるかわからない。
美智子
「あのリビングのピアノで、光君のお母さんが倒れて、そして亡くなったの」
「光君は、普通の顔をしていても、思い入れが深いというか、そこで心を閉ざした場所なの」
「その場所では、本当に慎重に行動しなければならないの」
美智子の言葉は、針で刺すように、春奈の心を突き刺していく。
春奈は、この時点で、もはや何も言えない。
美智子は、さらに厳しい言葉を続ける。
そして、その言葉に哀感がこもり始める。
「光君、阿修羅が、乗り移ってから、特に本当に大変だと思うよ」
「それでなくても、お母さんが、あんな亡くなり方をして、しかも自分に責任のほとんどがあると、思い込んでいる」
「それで、心を閉ざして、自分を責め続けて、自分の心に自分で切り付けて、血を流し続けて」
「食欲が無くなる、身体が華奢になる、そんなのは当たり前のことだよ」
「そんなに自分を責め続けて、しかもお父さんの史さんがいないから、相談も何も、話をする人がいない」
「春奈に住んでもらったのは、少なくとも栄養だけでもと思ったから、圭子さんたちと相談してね」
美智子の声が、湿って来た。
「あなただって、巫女だからわかるでしょう」
「呪力を使うことの、その後の疲れ」
「それを光君は、乗り移って以来、ずっとなの」
「おそらく気力のほとんどを、あの阿修羅に使われているはず」
「だからと言って、出ていってもらうなんて、無理」
「そんなことをしたら世界も、どうなってしまうのか、わからない」
「一緒に住む巫女たちが増えたのも、阿修羅としての戦略だけどね」
「光君にとっては、辛いと思うよ」
「みんなのご機嫌を取らなければならない」
「気を使っていないとか、無神経とか、無粋とか、そんなことを言ってはいけないの」
「一人二人の異性だけでも大変なのに、すごく増えたでしょ?」
「その上、学校があって、音楽があって、そっちにも気を配る」
「悪魔が出てくれば、いろいろ戦略を考えて、なるべく被害が少ないように」
「一緒に戦う御神霊の面子まで考えて、阿修羅と一緒に戦っているの」
美智子は、泣き出した。
「・・・光君・・・可哀そうだよ・・・」
「あんな・・・やさしい子に・・・すっごい重しをかけて・・・」
「必死に戦って・・・文句を言われ・・・」
「みんな、欲しがるのは、自分への愛情ばかり・・・」
「光君の心と身体まで、欲しがって・・・」
「光君の、心の闇を・・・苦しさ・・・辛さなんて・・・」
「本当に考えている?」
「心はボロボロ、傷だらけ、出血しながら、闘っているの、闘い続けているの」
春奈も泣き出してしまった。
リビングの光を見ようと思った。
しかし、いつの間にか、光の姿はない。