光はほとんど食べずにダウン
巫女たちは、豪華クルーズ船に準備された様々な豪勢な魚介料理に加え、自分たちの料理心が旺盛なため、煮込み料理やフカヒレ、炊き込みご飯などを作って食べることに余念がない。
しかし、光は
「見ただけでお腹いっぱいになった」
「その前に、由香利さんとお風呂入ったから、少しのぼせているかも」
などと、全く食べ物に手をつけようとしない。
結局、八部衆の神々のバンドに入って、ピアノを弾いたりしている。
その光の様子を見た金剛力士阿形が苦々しい顔。
「あれだから、体力がつかない」
吽形も同じ思いらしい、ただ、頷くのみ。
ポセイドンは、首を傾げる。
「昔の阿修羅の宿り子は、食欲はあったよ、あの子はあんな感じなのか?」
「さっきのメデューサ対策の話は、すごいものがあったけれど」
関羽将軍も口を挟む。
「横浜で特製粥を食べさせたんだ、阿修羅の時はいいけれど、人に戻った時の消耗が見ていられなくてね、少しは改善したみたいなのだが」
いつのまにか、将門公も加わってきた。
「神田の天ぷらよりは、蕎麦を選ぶ子なんだ」
「ウナギなんて、見向きもしない、子供の頃から見ているけれど」
地蔵菩薩も出現した。
「まあ、時折、食欲を示すことはありますよ、でも、まさに時折」
「高校一年生の頃なんて、小学生の低学年と同じか少ないくらい」
「夜にサンドイッチ一個だけとか、朝は水だけとか」
様々な御神霊が心配をする中、光が食べた食事は、巫女たちが持って行った地中海風魚介類煮込みを御椀半分、炊き込みご飯も茶碗半分、フカヒレを5cm四方くらい。
ソフィーも話に加わった。
「やはり、まだ心の傷が癒えていないのでしょうね」
「母親の悲惨な事故の原因で、いまでも、自分を責め続けている」
「東大寺で、母親の霊に出て来てもらったりもしたのですが」
地蔵も難し気な顔。
「あの子が、背負っているものは、背負わせてしまったものは、とてつもなく重い」
「しかし、それを、本当に支えきる人が、まだ・・・」
「巫女様方も、本当に献身的になされてはいるのですが」
さて、そんな話をしていると、光に変化があったようだ。
華奈が騒ぎ出した。
「光さん、目がトロンとなってる!」
「もう眠いの?まだ昼間だよ」
「ほらーーー!ちゃんと炊き込みご飯を最後まで食べて!」
春奈は、光の状態を察した。
「華奈ちゃん、無理だって、こうなると光君は、寝ちゃうだけ」
「いつものことでしょ?阿修羅から戻った時の、ダウン現象」
身体が大きく揺れ出した光を、ルシェールが抱えた。
「しかたないなあ、せっかくの豪華なご苦労さん会なのに」
光は、ボソボソ。
「あ・・・ルシェール、ごめんなさい」
「メチャ眠いの、ちょっと寒い」
「湯あたりしたのかな」
「頭がクラクラしてきた」
「でも、眠いや」
「ルシェール、ごめん、支えて」
光は、結局ルシェールに抱えられ、眠ってしまった。