一行は豪華クルーズ船に乗り込んだ。
さて、少々の「今後の懸念と対策」の話があったものの、光の一行は、江戸の大親分が用意した船に乗り込んだ。
ただ、船といっても、江戸時代風の屋形船ではない。
小ぶりながら、一つ一つの調度品が素晴らしく豪華なクルーズ船風だった。
これは、由香利が光に説明。
「私は、こういう感じが好きなの、親父は抵抗したけれど、そうさせた」
「いつかは行こうね、光君、二人きりでクルーズしよう」
と、またしても「お誘い」をかけるけれど、光は途中から何も聞いていない。
というよりは、甲板に立つ三人の大男に目を向けている。
「おーい!こっちに!」
その男たちの中から、野太い声が聞こえてきた。
金剛力士阿形の声である。
光の顔が変わった。
いつものボンヤリ顔ではない。
面倒そうな顔。
「あいつら・・・ハゲ坊主が三人・・・」
「阿形に吽形にポセイドン?」
「はぁ・・・ゴツイなあ・・・ゴツイだけが取り柄か・・・」
ただ、光も、そんなことを言いながら、結局はハゲ坊主三人衆のいる甲板に向かっていく。
ソフィーが、由香利に声をかけた。
「ねえ、ポセイドンも金剛力士も招待したの?」
由香利は、ニッコリと答えた。
「はい、今回の闘いの祝賀会なので」
「もちろん、媽祖様、関羽様、将門様も、すでに乗られております」
「八部衆の面々も、おられますよ、さっきバンドを組むって言っていましたけれど」
結局、江戸の大親分と、その娘由香利は、戦闘に参加した全ての御神霊を、この豪華クルーズ船に乗せてしまったようだ。
その豪華クルーズ船に、船内放送が流れた。
江戸の大親分、自らのアナウンスだった。
「それでは、今回の闘いにおける感謝の集いを、執り行いたいと存じます」
「ご乗船の皆々様、甲板にお集まりください」
巫女たちの中で、アナウンスに、まず華奈が反応した。
「ねえ、春奈さん、船上パーティーってことだよね、となるとお魚料理だよね」
春奈は、あまりの当然の質問で、
「まあ、山菜料理ではないだろうねえ・・・それは」
と、答えるのみ。
華奈は、それでホッとした様子。
「はぁ・・・よかった・・・安心した」
ルシェールが「意味不明」という顔で華奈に、
「華奈ちゃん、さっきの呪法で神経使い過ぎたの?どうしてホッとするの?」
由紀は、なんとなくわかったようだ。
「ねえ、華奈ちゃん、もしかして楓ちゃんのこと?また豪勢な料理食べて、メチャクチャ嫉妬攻撃してくるってこと?」
華奈は、素直に頷く。
「そう、さっきから、何度もラインに楓ちゃんから来ているの」
「アホの光君は大丈夫とか」
「あんたたちだけで、美味しいもの食べるんだったら、奈良に帰ってきたら、にゅう麺しか食べさせないとか」
「もうね、すごいの、光さんより、楓ちゃんのほうが手が焼ける」
華奈は、もう少し説明をする。
「でもね、楓ちゃんね、奈良育ちで、お刺身食べないの、だから良かったかなって・・・お肉だったら、にゅう麺だけですまなくてさ、全部鹿せんべいになるかも」
その説明には、全ての巫女が実感があるようで、全員、深く頷いている。