サラが語るメデューサの話、そして光と春奈
ソフィーがサラの顔を見た。
そして、サラに声をかけた。
「サラ、少しメデューサについて、もう一度、少し詳しく教えて欲しいの」
サラも、頷いて話し出す。
「メデューサは、ギリシャ神話に登場する怪物」
「ゴルゴン三姉妹の末妹になります」
「青銅の腕と黄金の翼を持ち、髪の毛が蛇になっています」
「猪のような牙を生やした姿で描かれることもあるけれど」
「有名な話としては、彼女を直視した者は恐怖のあまり体が硬直して石になってしまうといわれているということ」
「前にも話したかもしれませんが、古代ではメデューサの顔を象った装飾が、神殿や鎧などの魔除けとして用いられていたこともあります」
「その名前の意味は『支配する女』とか、『守護する女』」
「もともとは、オリュンポス十二神が台頭する遥か以前にギリシャで崇拝されていた地母神だったと考えられています」
「ギリシャ神話においては、女神アテナに憎まれて、ゼウスたちの計略に引っ掛かり、姉共々怪物に変えられた挙句、最後はアテナの導きと加護を受けたペルセウスによって首を刎ねられて殺されてしまいます」
「ただ、直視するものを石化する能力は死後も失われることはありません」
「ペルセウスはメデューサの首を使って、天を支える巨人アトラスを岩山に変えてみたり、自らを殺そうと企む者たちを全て、石化させたりもしました」
「その後、彼女の首は女神アテナに献上され、アテナは自身の楯である『アイギス』にメデューサの首を貼り付けて敵対する者への脅しとしたと言われています」
「また、メデューサの視線によって石化した海藻がサンゴになる、メデューサの首から滴る血が砂漠に落ちて様々な毒蛇が誕生したなどの話もあります」
サラは、ここまで話して、また辛そうな顔、
「彼女は海神ポセイドンの愛人でした」
「怪物になる前に彼の子を身篭っておりました」
「そもそも怪物に変えられたのも、アテナの神殿でポセイドンと交わり、その神聖を穢したためだとも言われています」
「ペルセウスに首を刎ねられた際、その首元から天馬ペガサスと黄金の剣を持つ巨人、クリュサオルが誕生したといわれています」
「もともとは、見事な髪の毛が自慢の美少女だったそうです」
「ところがアテーナと美しさを競ったため、その美貌を取り上げられ、髪はシューシュー音をたてる蛇に変えられてしまったのです」
「ゼウス神の計略で、ペルセウスは、ヘルメースからは空を飛ぶサンダル、アテーナからは輝く盾を借り受け、メドゥーサの住処へ向かいました」
「眠っているメドゥーサに忍び寄り、輝く楯に映った彼女の姿を見ながら、その首を切り落としたのです」
「その首はキビシスという特別な袋に入れて持ち帰りました」。
「この時、流れたメドゥーサの血からペガサスが生まれたといわれています」
「やがて、ペルセウスはその首をアテナに捧げると、女神アテナはアイギスの楯の中央にはめこみました」
サラの説明が長々と続く。
光が、ようやく言葉を挟んだ。
「確かに、メデューサの哀しくも凶暴な念が近づいていることは、わかる」
「ポセイドンがいなくなったので、追いたくなったのかもしれない」
「あるいは、古神のオリュンポス十二神への恨みか・・・」
「いずれにせよ、どんなことをしでかしてくるのか・・・」
春奈が、ポツリとつぶやいた。
「凶暴な恐ろしい怪物とは知っていたけれど、愛に苦しみ、嫉妬に苦しみ、謀略に苦しみ・・・可哀そうな気がしてきた」
光が、春奈の顔をじっと見る。
「今回は、春奈さんが主力になる」
春奈の顔が、その言葉で、キラキラと輝きだした。