由香利と光の唇が ますます不穏な状況
光は、由香利に思いっきりムギュっと抱かれて、全く身動きができない。
そして、本当に慌てた。
「由香利さん!ここは神前です!」
「いけません!そんなこと!」
しかし、由香利は腕の力を全く緩めない。
それどころか、胸を光の胸に押し付ける。
「光君、こうすれば逃げられないでしょ?」
「やっとだよ、全く」
「いつもいつも、手を握ったくらいで逃げ出して!」
「マジで気に入らなかった」
「女に恥をかかせないで」
「いい?光君、これも住吉様と伊勢様の御意向なの」
光の冷静だった顔は、今やどこにもない。
メチャクチャに真っ赤な顔状態。
「由香利さん、あの・・・恥ずかしい」
由香利は、ますます腕の力を込め、胸を押し付ける。
「何を今さら言っているの?」
「ルシェールとはキスしたんでしょ?」
「由紀ちゃんとは、素肌で抱き合ったんでしょ?」
「ソフィーは膝枕とか、剣道の時に受け止めて、抱きかかえたんでしょ?」
「春奈さんとは、一晩同じベッドで寝たんでしょ?何もなかったけれど」
光は、まったく返事ができない。
今度は光がゼイゼイとし始めた。
由香利は、ますます光を責める。
「私だって、光君とそうなりたいもの」
「それのどこがいけないの?」
由香利は、光を抱いていた腕を離した。
そして、両手で光の頬を挟み込んだ。
由香利の声が震えた。
「光君からもう一回抱いて」
「しっかり抱いて、これも御神意なの」
光が、しっかりと由香利を抱くと、由香利の唇がゆっくりと光の唇に重なった。
隅田川と東京湾に浮かんでいた赤黒い泡は、川沿いの草や木を燃やしながら、少しずつ形状が変化している。
ソフィーは、その変化した形状を見て、嫌そうな顔。
「あれは旧日本軍の兵士のスタイル」
「それも、あれほどまでに大量に」
「悪神ベルゼブブめ、気に入らない」
「日本人の心情を逆利用するのか」
「いつもいつも、くだらない混乱を好む神だ」
アーサー王は、宙に浮かぶ将門公の表情を注視。
「将門公のお怒りの表情が、すごい」
「こんな不逞な輩は認めないって・・・」
「それもそうだろう、江戸の街を焼こうなどとする日本兵などありえない」
ソフィーは上空高くを見上げ、また異変を発見した。
「く・・・戦闘機か・・・今度は・・・」
「それも・・・B29・・・」
「東京大空襲の再現を狙うのか」
「地上では、旧日本軍の兵士に東京を業火で襲わせ、空からはかつてのB29から悪魔の火矢を浴びせかける」
「東京壊滅を狙うのか」
「そして、川と海を通じて、全世界に毒を拡散させる・・・」
ソフィーの目に、激しい怒りが宿った。
東京湾、隅田川周辺、及び上空には不穏な状況が拡大の一途。
佃住吉の本殿の中では、由香利と光の唇は、重ねられたままになっている。