隅田川の不穏と、上空の八部衆の神々
隅田川の異変は、赤黒い泡だけではなかった。
それを発見したのは、春奈。
「ねえ・・・魚が大量に死んでいる・・・一面・・・魚の死骸で・・・」
春奈の声が震えている。
ルシェールは胸の十字架を握りしめた。
「こんなことって・・・あり得る?・・・死んで浮き上がった魚が人の姿に・・・」
「それも、顔が焼けただれているとか・・・手足が焼けてボロボロになったとか・・」
いつもは冷静な由紀も、身体全体を震わせている。
「もしかして・・・東京大空襲の怨念?哀念が?あんな小さい子供まで?」
「あの子、お母さんのお乳吸っているけれど・・・お母さんの顔が半分ない、手足もない・・・」
華奈は泣き出してしまった。
「どうして?あの軍人さん!竹槍持って戦えって?」
「銃剣?それ持って、あんなお年寄りを叩いて!」
「鬼畜米英を倒せ?そんなこと言って・・・武器を持っていないお年寄りを叩くの?」
サラは、しっかりと状況を見る。
「赤黒い泡が大きくなりつつある・・・隅田川の水位を超えて、氾濫するかもしれない・・・あれ?」
「川のまわりの草?芝?すごい勢いで燃え始めている・・・」
「あ!道路の車・・・建物に・・・」
「このままだと、東京中が火事に?」
ソフィーの背中に羽が出現、そしてキャサリンに声をかけた。
「キャサリン、いや、アーサー王、空に飛びます」
「東京湾の上空を見ましょう」
キャサリンは頷いた。
そして、不思議な呪文を唱えると、その身体が銀に輝く甲冑に包まれた。
ソフィー「浮かびます!」
キャサリン「はい!」
その次の瞬間、ソフィーと手をつないだキャサリンの姿は、キャデラックから消え、東京湾上空に浮かぶ雲の上に飛んだ。
その東京湾上空では、八部衆の神々がソフィーとキャサリンを待っていた。
まずは鳥神のカルラが巨大化して、大きな羽を広げる。
「さて、始まるぞ、これに乗ってくれ」
ソフィーとキャサリンがカルラの羽に乗り込むと、八部衆の神々の中のゴブジョー神から声がかかる。
「まずは、光君、いや阿修羅様と由香利さんの佃住吉様での霊薬奉献と祝詞」
「それが戦闘の合図となります」
ゴブジョー神は、八部衆の中でも一番手、「天」ともいえる切り込み隊長でもあり、かつ、まとめ役。
次に声をかけてきたのは竜神のサカラ神。
「燃え広がる前に、雨を降らせるから心配はない」
「その雨は、清浄雨、邪霊を浄化できる」
恐ろし気な顔をしたクバンダ神も声をかけてきた。
「また今度も邪霊を食い尽くす、華奈ちゃんの鏡の秘法と連動する」
さて、音楽神であるケンダッパ神、キンナラ神、ヒバカラ神は、それぞれに楽器を持つ。
すなわち、横笛、鼓、琵琶である。
そして、意外なことを言っている。
ケンダッパ神
「退治が終わったら晴海で演奏でもしようか」
キンナラ神
「阿修羅じゃなくて、光君がいいな、彼の方がノリがいい」
ヒバカラ神
「クラプトンとか面白そうだ」
「女の子が多いからAKBとか乃木坂でもいい」
この不穏な状況の中で、すでに勝利を確信しているのだろうか、八部衆の面々は落ちついた楽しそうな雰囲気。
それには、ソフィーもキャサリンも、呆気に取られている。