華奈の不安 隅田川の異変
由香利の「大姉御風」に戸惑いを見せる巫女たちはともかく、光は由香利と、その父と、一台目のキャデラックに乗り込んだ。
その運転手も、由香利の父つまり「江戸の大親分」の組の者らしい、キリッとした角刈りの男。
由香利が光に声をかけた。
「ここらへんのチンピラ警官なんかと違って、よほど度胸が据わってんのさ」
「かといって、非道な法に触れる行為とか、弱い者いじめはしないよ」
「程度の低い悪を懲らしめ、江戸の街を平穏に保つの」
光も、それには頷いた。
「そういえば、程度の低い警察官もたくさんいたな」
「ここらへんでも、地上最強とか言う空手道場の手下になっていたり」
由香利の父も、話に加わってきた。
「渋谷ではご迷惑をおかけしました」
「あんなチンピラ風情で、その後始末しておきました」
光は、少し笑って首を横に振る。
「いや、あの時は、金剛力士のおっさんに任せた」
由香利も、知っていたのか、笑う。
「うん、それが正解、光君はなんでも動き過ぎると疲れるよ」
「親分自ら動かないこと」
そこで光は笑ってしまう。
「僕が親分なの?まだ高校生だよ」
しかし、由香利は後に引かない。
「うん、大親分さ、ある意味最強のね」
一台目のキャデラックで、光たちは、そんな話をしているけれど、二台目のキャデラックの巫女さんたちは、落ちつかない。
華奈がブツブツ言っている。
それも、少し不安な様子。
「あのね、夢に阿修羅たちが出て来てね、晴海ふ頭で伊勢の大鏡の呪法をするようにって、言うの」
「由香利さんがいれば何とかできるけれど、一人だと不安なの」
そんな華奈に春奈が厳しい言葉。
「いい?せっかく期待されてるんだから、しっかり間違えないようにしなさい、呪文そのものは覚えているでしょ?」
ルシェールも華奈には厳しい。
「渋谷で光君を救ったこともあるでしょ?どうして二回目が不安なの?それが甘えって言うの」
由紀は、冷静に華奈に一言。
「もし、華奈ちゃんが不安だったら、私が華奈ちゃんのお母さんに聞こうか?」
「それでもいいけれど、華奈ちゃんの、そんな不安の理由を説明することになるよ」
華奈は、由紀の言葉で震えた。
「・・・それは困る・・・鬼母だけには言わないで・・・」
ソフィーも冷静に聞いていたけれど、やはり一言がある。
「楓ちゃんにも、言っちゃおうか?」
華奈は、それで「撃沈」。
「うーん・・・」と唸って、鏡の呪法の「おさらい」を始めている。
さて、キャデラック二台が、杉並から東京湾、隅田川に近づくにつれて、空に黒い雲が増えている。
まだ、午前中なのに、かなり暗い。
そのため、全ての車がライトを点灯して走っているほどである。
キャサリンが、窓から見える隅田川を見て、震えだした。
「赤黒い泡が・・・ブクブクと・・・怖い・・・」
「私を睨んでいるみたいに・・・」
震えて顔が青ざめてしまったキャサリンの身体を、サラと春麗が護るかのように、支えている。




