江戸の大親分と大姉御
午前8時、朝食を終えた光の家の前に、黒光りのする豪華なキャデラック二台が停車した。
由香利は、「パジャマから着替えをする」と言って、自分の部屋に入った光を迎えに階段を登っていく。
それを見る巫女たちは、複雑な人もあり、様々である。
春奈「うーん・・・気に入らないけれど、今日だけ認めてあげる、でも今日だけ」
華奈「お迎えは、私の役なのに・・・でも由香利さんは美脚だ・・・うーん・・・」
ルシェール「胸なら負けないけれどなあ・・・でも、今日の由香利さんはきらめいているし、まさに美人・・・光君が鈍感でよかった」
ソフィー「いや、鈍感なのは認めるけれど、着替えが遅すぎ」
由紀「どうしてこういう時にノロマなんだろう、でも、由香利さんは役得かも」
キャサリンは、窓の外のキャデラックに注目。
「誰か、メチャ迫力ある人がおりてきた」
サラは、おりてきた人をじっと見る。
「あらーーー・・・すっごい強くて怖そうな人・・・修羅場を相当くぐっているタイプ」
春麗は、胸を抑えてドキドキしている。
「でも、かっこいい、怖そうだけど美形だよ、由香利さんに似ているかも」
さて、そんなことを言っていると、光は由香利に腕を組まれて階段をおりてきた。
そして、巫女全員に声をかける。
「さて、水の悪霊退治をします」
「これから僕と由香利さんは、一台目の車で佃島住吉に」
「他の巫女さんは、もう一台の車で晴海ふ頭に向かってください」
華奈をはじめとして他の巫女がムッとなるけれど、文句を言っている時間はなかった。
すぐに玄関のチャイムが鳴った。
由香利は、巫女全員に頭を下げ、
「ああ、親父だよ、ちょっとここで挨拶させる」
と、光をそのまま引きずり、スタスタと玄関まで歩き、扉を開ける。
そして玄関に現れたのは、キッチリとした上質な黒のスーツに身を包んだ大柄の紳士。
眼光は鋭く、色は浅黒いけれど、春麗が見た通り、由香利によく似た相当の美形。
その紳士が光に深く頭を下げた。
「由香利の父でございます」
「いつぞやは、かつての築地の混乱を鎮めていただき、本当に心より感謝しております」
「そして、その御礼も果たせぬまま、また今回、このような事態に対処をお願いいたしまして、誠に申し訳ありません」
よく通る低い声、その声そのものに、迫力がある。
ただ、光は、いつもの通り、ハンナリ声。
「いえ、お父様、お頭を上げてください」
「僕の方こそ、由香利さんには、大変お世話になっています」
「それに、今回の敵も、普通では対処できない相手」
「まずは、この東京、江戸に住む我々が協力し合って、倒そうではありませんか」
光の言葉で、由香利の父は頭をあげた。
「いや、心よりありがたい御言葉」
「何より、江戸に住む我々がなどと・・・」
「本当に元気づけられる御言葉」
光は、クスッと笑う。
「さあ、やっつけましょう、江戸の大親分」
その光の言葉で、由香利は光と腕を組んでしまう。
そして由香利は、その父に
「さあ!行くよ!親父!」
「気合い入れるぜ!」
と思いっきり、ハッパをかける
・・・後ろで聞耳を立てている巫女たちには、その耳を疑うような言葉。
ソフィーが笑い出した。
「やはりねえ・・・由香利さんの、もう一つの姿さ・・・」
由紀も笑い出した。
「うん、お上品だけじゃないの、実は関東巫女界でも、大姉御なんだ」
他の巫女たちは、そのギャップにまだ、戸惑っている。