決戦前夜
地蔵菩薩が異形全員に声をかけた。
「まずは、結界を張らなければなりません」
「その結界が無ければ、十分な戦闘もできなければ、悪霊退治もできません」
「その結界については、私が引き受けましょう」
阿修羅の顔が、厳しく変化した。
「その結界を東京湾と隅田川に張り終えた段階で、光君と由香利さんが、佃の住吉に出向く」
媽祖の顔も厳しい。
「そこでの祝詞が、戦闘の開始なのですね」
阿修羅が頷くと、ポセイドンも口を開いた。
「特製の水浄化の秘薬も、同時に流れ始め、水から悪霊が浮かび上がる」
「そして、それを叩く」
ソフィーは、大天使ガブリエルの姿に変化した。
「私とキャサリンは、上空で戦況を報告」
「阿修羅様と八部衆の神々、金剛力士二体、アルテミス女神、媽祖様、九天玄女様、関羽将軍とその軍が、浮かび上がった悪霊を叩く」
阿修羅がポセイドンの顔を見た。
「倒した悪霊は、そのままポセイドンの網の中に放り込む」
「そしてポセイドンの網の中で、聖なる槍に突き刺され、本来ならば、消滅となるのだが」
阿修羅は、ここまで話して、地蔵の顔を見た。
地蔵も頷いた。
「いかに悪霊化されたとはいえ、もともとは善の魂を持った人々の霊」
「そのまま地獄に堕としたままでは、救いがない」
「これについても、始末は、この地蔵にお任せください」
ソフィーが阿修羅に質問をする。
「癒し系の巫女さんたちは・・・」
阿修羅は、頷いた。
「悪霊がすでに体内に入ってしまった人間も多い」
「ただ、その悪霊も佃住吉からの秘薬が流れ始めると、人の身体には留まれない」
「難しいのは、悪霊が人から抜かれた段階で、その人は青息吐息で横たわるはず」
「それを癒し系の巫女が浄化、回復させる」
「呪法としては、聖なる鏡の呪法、伊勢大神様の呪法となる」
ソフィーは、少し不安。
「もしかして・・・華奈ちゃんですか?」
阿修羅は、その表情を変えない。
「大丈夫、華奈さんは、あれで土壇場には強い」
「薬師如来の巫女、八方除けの巫女、聖母マリアの巫女も、完璧にサポートができる」
地蔵がソフィーに声をかけた。
「大丈夫です、阿修羅の戦略の一環なのです」
地蔵も、落ち着き払っている。
媽祖が笑い始めた。
「ねえ、ソフィー、嫉妬しているの?」
ポセイドンは、少し相好を崩した。
「華奈ちゃんは、案外強いよ」
・・・
異形たちは、これからの戦略や、珍しい華奈についての話になっている。
さて、当の光は、完全熟睡状態。
由香利は、なかなか寝付けないので、呪文の練習をしている。
そして華奈も、あまり寝付けない。
「私が光さんと佃の住吉に行きたいなあ」
「そこで、光さんと、シットリするの」
「ギュッとしてもらって、私もギュッとして」
「その後は、隅田川沿いを散歩・・・お団子も食べたいなあ、夢だけど」
華奈は結局、ベッドから起き上がった。
そして、伊勢大神に祈り始めた。
「伊勢様、光さんを絶対に死なせないでください」
「・・・それから・・・私を光さんのお嫁さんにしてください」
「私、懸命にがんばります」
華奈は、最後に泣き出してしまった。