春奈は薬師如来からの薬を光に
ソフィーが春麗の顔を見た。
「ねえ、春麗、これじゃあ、どうにもならないって」
「光君は、部屋に戻して寝かせないとさ」
「マジで眠っているし」
春麗は、頭を抱えた。
「中華伝統の滋養強壮薬と言っても、それは毎日飲み続けていて、薬効があるというもの」
「今飲んだからといって、すぐに効果は出ない」
春奈は、難しい顔で医師でもある母美智子に
「楓ちゃんの苦い丸薬を毎日飲ませても、こうなるの」
「ルシェールの胸とか、ニケの葉唐辛子のおにぎりとか、一時的には効果があるよ、でも、本当に一時的なものなの」
美智子は、厳しい顔。
「そこを何とかするのが、春奈の責任なんだけれどねえ・・・」
「もし、この状態の時に、悪魔が来たらどうするの?」
「春奈も、少しは考えたら?」
厳しい顔で、厳しいことを言いながら、春奈に「考えろ」との指摘。
春奈は、そこでムッとした。
「そんなことを言ってどうするの?」
「わからないよ、そんなの」
「まったく・・・性格が悪いなあ・・・」
そんな春奈と美智子の、バトルに圭子が割って入った。
圭子の顔も厳しい。
「今は、そんなことを言い合っている場合じゃなくてね」
そして、春奈の顔をじっと見た。
春奈は、珍しく厳しい圭子の口調に、背筋を伸ばす。
圭子は、美智子に少し頭を下げ、春奈に語り始めた。
「春奈ちゃん、もう一度、春奈ちゃんの身の上に、今日起こったことを思いだしてごらん」
「思い出せば、わかるはず」
「春奈ちゃんにしかできない、大切なことがね」
圭子の口調は、少し柔らかくなった。
春奈は、目を閉じ、じっと今日一日の出来事を思い出す。
「春日様、氷室神社、林神社、そしてお蕎麦を食べて・・・」
「それから西の京か・・・」
春奈の表情が西の京とつぶやいた時点で、パッと輝いた。
「薬師寺で・・・薬師如来様・・・」
春奈は、突然、自分の手のひらに重みを感じた。
「あ・・・わかった!」
「これが・・・あった・・・」
春奈の手のひらに、不思議な薬壺が出現した。
美智子は、ホッとした。
「ようやく気がついた」
「わが娘は、おっとりしている」
少々呆れるけれど、春奈はそんな美智子の顔は見ない。
「光君!お口開けて!」
「華奈ちゃん、お水持って来て!」
「薬師様のお薬を飲ませる!」
テキパキと保健室の教師風に指示。
そのまま、薬壺から丸薬を一粒を取り出す。
眠ってしまって意識がない光の口は、グイッと光の顔そのものを上げ、こじ開けた。
春奈は、華奈が差し出したコップの水と一緒に、光に薬師如来の丸薬を飲ませたのである。