楓にやさしい光
ソフィーに珍しく褒められたものの、光の話は、まだ終わらなかった。
由香利に頭を少し下げ、
「まだ、由香利さんのお父様とのお話も済んでいません」
「今回の作戦では、かなり協力をいただきたいので」
と、話し出すと、由香利の表情が変わった。
由香利は顔が真っ赤。
「あーーー!そうだった!親父から言われていたっけ!」
「早く光君たちとの話を決めろって」
「出来れば、お前が嫁になれって話!」
特に最後の言葉で、由香利は耳まで赤く染まった。
ただ、光の話は、由香利の表情や、その思いなどには進まない。
すぐに違う方向にそれてしまう。
「それから、今回奈良で訪問予定だった、聖武天皇と光明皇后の御陵と奈良町の元興寺については、横浜中華街の騒動で行くことが出来ませんでした」
「残念ながら、次回ということになると思います」
光の言葉は、一旦、そこで止まった。
巫女たちのほとんどが、「まあ、仕方がない」と言った顔になっている。
しかし、楓が例によって反発した。
「ねえ、光君、鳥神カルラにお願いして、今からでもどう?」
「やはり一度立てた予定は守らないと」
光は、困ったような顔をするけれど、他の巫女から次々に「ダメだし」が発生した。
春奈
「明日から学校があるの」
ソフィー
「もう夕方なの、寒い時に外出して、ひ弱な光君が風邪ひいたら、面倒なの」
ルシェール
「そうなったら、私が付きっきりで看病するけれど、それでもいい?」
由紀
「コンサートの練習もあるの、第九を歌うんだから、それに華奈ちゃんのヴァイオリンはメチャ心もとない」
華奈
「・・・由紀さん、はっきり言い過ぎ、でも自分でもそう思う」
・・・・・様々、ダメだしがなされる中、光もそれに続いた。
それも、かなりマジな顔。
「あのね、小沢先生との話があってね」
「秋にプロデヴューするの」
「そう言えば、そっちの練習もしないと」
光の話を、圭子が補足した。
「いい?楓、光君は、そんな状態じゃないの」
「悪霊対策、コンサート練習、メチャ忙しいの、わかる?」
奈津美も、楓をなだめた。
「楓ちゃんの気持ちも、すごくよくわかる」
「でもね、無理なことは、させないほうがいい」
楓も、そこまで言われると、シュンとなって声も出ない。
そんな楓に、光が声をかけた。
それもやさしい声。
「杉並の家の隣のアパート、楓ちゃんの部屋を作ってあるの」
「だから、都合がついたら、いつでも泊っていいよ」
「学園のコンサートとか、プロデヴューの時とか」
シュンとなっていた楓は、ようやく顔を上にあげた。
「ありがとう、光君、またずーっと会えないと思って」
「我がまま言っちゃった、ごめんなさい」
少し涙顔になっている。
そんな楓に、光はまたやさいい。
「楓ちゃん、僕の隣に来て、一緒にお菓子食べよう」
楓は返事も何もない、涙顔のまま、光の隣に座ることになった。