メデューサの到来予感、光は?
サラは、一度深く深呼吸をして、話しはじめた。
「私が、今感じる邪念の類は、あのメデューサのもの」
「おそらく、皆様も、その名前ぐらいは、ご存知のはず」
サラの言葉で、部屋に集まった全員が頷くと、サラは言葉を続けた。
「そもそも、メデューサはギリシャ神話に登場する怪物」
「青銅の腕と黄金の翼を持ち、髪の毛が蛇として描かれてみたり、猪のような牙を生やした姿で描かれることもある」
「その彼女を直視した者は、恐怖のあまり体が硬直して石になってしまう」
「古代ではその顔を象った装飾が、神殿や鎧などの魔除けとして用いられていたこともある」
聞いている全員が真剣な表情。
サラは、また言葉を続ける。
「名前の意味としては『支配する女』、または『守護する女』」
「歴史をたどれば、オリュンポス十二神が台頭する遥か以前に東地中海世界のギリシャで崇拝されていた地母神だった」
「神話では、女神アテナに憎まれて姉共々怪物に変えられた挙句、最後はアテナの導きと加護を受けた英雄ペルセウスによって首を刎ねられて殺された」
「女神アテナに憎まれた理由としては、彼女は海神ポセイドンの愛人でもあり、怪物になる前に彼の子を身篭っていたこと」
「実は、アテナの神殿でポセイドンと交わり、その神聖を穢したために、そんな怪物に変えられてしまった」
「・・・と・・・ここまでが、神話上のこと」
サラは、ここで、メデューサについての説明を終えた。
ソフィーが難しい顔。
「では、そのメデューサが、いつ、どのような形で、どのような場所で、攻撃をしかけてくるのか」
「攻撃対象に、その恐ろしい姿を見せて、硬直化、石化するのがメデューサの特殊技術」
「おそらく光君と私たちを何らかかの理由で、倒したいのだろうけれど」
ただ、難しい顔をし続ける巫女たちはともかく、光は途中から背伸びをしたり、あくびまで始めている。
まるで、どうでもいい、というような雰囲気さえ見えている。
そして、これにはソフィーが少々気に入らない。
ついつい、厳しい口調になる。
「光君、何をボンヤリしているの?」
「すっごく危険なことだよ、把握しているの?」
しかし、光はソフィーに叱られても、表情は変わらない。
それどころか、またもう一度、大きなあくび。
そして、ようやくソフィーや巫女たちに、発した言葉は、呆れるものだった。
「ああ、心配ない、好都合さ」
「これで一気にカタをつけられる」
「それより、甘い物が食べたい」
ただ、その光の「ほぼ意味不明な発言」に対して、ソフィーを含めて、他の巫女が文句を言えない理由は一つ。
光の目が、異様なまでに、輝いているのである。