疲労困憊の光と、その対策
視肉、太歳、白蛇精との戦いが終わり、全てが平常に戻った。
ただ、光はやはり疲れてしまったようだ。
顔がますます青白い、足取りもふらつく。
その光を心配そうに、キャサリン、サラ、春麗が取り囲んで歩く。
鳥神カルラの上の巫女たちも、不安気な様子。
由紀がキンナラ神の顔を見ると、キンナラ神も察した様子。
再び、小鼓を打ち始めた。
圭子が、鳥神カルラの上に乗る全ての巫女に声をかけた。
「私たちも降りるとしましょう」
次の瞬間、全ての巫女が光を取り囲むように、キンナラ神の鼓の音に乗り、山下公園の上に降り立った。
ソフィーが大天使ガブリエルから姿を戻し、全員に声をかけた。
「これから奈良に戻っても大変なので、すぐそこのホテルを予約しました」
「光君の家に戻ってもいいけれど、光君は疲れすぎているので」
「奈良のホテルに残して来た荷物は、私が全て対応して今夜中に」
ニケがソフィーの言葉を補足する。
「大天使の力を使います、この際仕方がない」
「ただ、奈良の人は、それぞれの自宅に」
どうやら、大天使の「物品移動の力」で、対処をするらしい。
ただ、そんな状況の中、楓が、「申出」をはじめた。
「私の分も、横浜にできないかなあ」
「ねえ、せっかく横浜に来たんだからさ」
「ずっと一緒に住んでもいいかなあ」
「ねえ、光君、名案と思わない?」
楓は光にも、「同調」を求めるけれど、当の光は、やはり疲れて何も聞いていない。
すでに「立ったまま居眠り状態」、キャサリンとサラが両脇を抱えていなければ、そのまま山下公園に倒れている。
そして、楓の「申出」は、母圭子により、あっさり却下された。
「その前に受験勉強でしょ?まだ合格ラインに達していないでしょ?」
「英語の点数見たよ、あれじゃあ無理」
楓には「英語の点数」が、ことのほかダメージだったようだ。
その時点で、「申出」は、自ら引き下げることになってしまった。
さて、一部、そんなことはあったものの、一行はそのまま、ソフィーが予約したホテルに直行、休憩することになった。
華奈は、山下公園を歩きながら、ソフィーに尋ねた。
「ねえ、ソフィー、この超名門ホテルに泊まるの?」
「ここで、お食事もするの?」
ソフィーは、そんな華奈に
「うん、その予定だよ、というか光君が、歩けそうにない」
「今だってヘロヘロに歩いているでしょ」
「情けないけれど、ここ2日間ぐらい変化とか異変が多かったから、身体の芯というか、精力が減っていると思う」
と、マトモに応えている。
由香利も不安げな顔で光を見る。
「ほぼ、意識が飛んでいる」
「あれじゃあ、白蛇精もどうにもならない」
由紀は、光の近くに駆け寄った。
そしてマジマジと光の顔を観察する。
「うーん・・・授業中の居眠り顔だなあ・・・」
「おそらく眠いだけだと思う」
「顔が青白いのは、鳥神カルラの上で風にあたって、その後、横浜の海風かな」
春奈も、光の近くに来た。
そして、由紀と同じように観察する。
「ふむ・・・これは私の出番だ」
「というかやっと出番が来た」
そういう春奈の顔は、いつになくニンマリ状態。
ルシェールは、その春奈の内心をすぐに見抜いた。
「春奈さん、もしかして、一緒のベッドで介抱しようと思っていません?」
「だめです、そんなの」
その後のルシェールの行動は、本当に速く、力強かった。
由紀、由香利、キャサリン、サラ、春麗まで押しのけて、光と腕を組んでしまったのである。