戦闘そして、ルカ伝の異変
さて、鳥神カルラの上で、ルシェールは光に言われたことを気にしている。
「光君が、ルカ伝の第8章27から、33までを読んでって、言ったの」
ソフィーは、目を閉じて、その文を思い出している。
ニケは地上の動きを見張っている。
「山下公園で、すごい戦闘が始まった」
「阿修羅が、何か技を使って、悪霊を帯びた人を中華街から山下公園に集めちゃったらしい、あれは奈良で去年使ったアラム語の秘術かな」
ルシェールとソフィー以外は、全員が阿修羅、アーサー王、アルテミス、九天玄女と悪霊を帯びた中国系の人々との戦闘に目が釘付けになった。
阿修羅は、六本の腕を振り回し、またその身体を超高速で回転させ、次々に敵を倒していく。
キャサリンが変化したアーサー王は、銀の甲冑に光り輝く剣、おそらくエクスカリバーを豪快に振るい、同じように敵を倒していく。
サラが変化したアルテミス神は、ギリシャ風の短い衣、これも光り輝くアルテミスの弓で、バタバタと敵を倒していく。
さて、春麗が変化した九天玄女は、真っ赤な中華ドレスで、徒手空拳。
「阿修羅様、アーサー王様、アルテミス様、ありがとうございます!」
と叫びながら、軽々と宙を飛び、蹴りや突きを振るい、瞬時に敵を倒していく。
いつの間にか、金剛力士阿形が阿修羅の隣で闘っている。
阿形が阿修羅に声をかけた。
「とにかく、人数が多いなあ」
「でも、暴れがいがある」
阿修羅は、その腕を振り回しながら答える。
「ああ、思いっきりやってくれ、たまにはカンフー相手も面白いだろう」
「でも、そのゴツイ腕や身体には、通用しないか」
吽形が珍しく阿修羅に声をかけた。
「ゴツイゴツイって言い過ぎだ、全く」
「せも、八咫鏡が効いているな、倒すごとに悪念が吸い取られていく」
阿修羅は、少し笑う。
「それは伊勢の大神様直々だからさ、そして吸い取った後は、また仕掛けがある、楽しみにしてくれ」
しばらくは、山下公園まで、その戦いが続いた。
しかし、やはり神霊と悪霊の戦い、決着がついたようだ。
すでに、邪魔をする悪霊に意識を支配された人間はすべて倒され、山下公園の広場に夥しく倒れている。
阿修羅は、上空を見上げた。
そして叫んだ。
「ルシェール!」
その叫びで、ルシェールの着ている服が、純白の長衣に変化した。
ルシェールは胸に十字を切って、ルカ伝の「光に指定された部分」を読みはじめた。
「陸にあがられると、その町の人で、悪霊につかれて長いあいだ着物も着ず、家に居つかないで墓場にばかりいた人に、出会われた」
「この人がイエスを見て叫び出し、みまえにひれ伏して大声で言った、『いと高き神の子イエスよ、あなたはわたしとなんの係わりがあるのです。お願いです、わたしを苦しめないでください』」
「それは、イエスが汚れた霊に、『その人から出て行け』、とお命じになったからである、というのは、悪霊が何度も彼をひき捕えたので、彼は鎖と足かせとでつながれて看視されていたが、それを断ち切っては悪霊によって荒野へ追いやられていたのである」
「イエスは彼に、『なんという名前か』とお尋ねになると、『レギオンと言います』と答えた。彼の中にたくさんの悪霊がはいり込んでいたからである 」
「悪霊どもは、底知れぬ所に落ちて行くことを自分たちにお命じにならぬようにと、イエスに願いつづけた」
「ところが、そこの山べにおびただしい豚の群れが飼ってあったので、『その豚の中へはいることを許していただきたい』と、悪霊どもが願い出た。イエスはそれをお許しになった。」
「そこで悪霊どもは、その人から出て豚の中へはいり込んだ、するとその群れは、がけから湖へなだれを打って駆け下り、おぼれ死んでしまった」
ルシェールは、ルカ伝を、光に「指定された通り」に読んだ。
そして、読み終わると同時に、不思議な異変が発生した。