西の京散策(5)唐招提寺には徒歩で 光と華奈の接近
さて、薬師寺参拝を終えた一行は、徒歩で唐招提寺へと向かうことになった。
それは光が、
「目と鼻の先、たまには歩こうよ」
と、珍しく殊勝なことをいったため。
確かに、薬師寺と唐招提寺の距離は、玄奘三蔵院から歩いて7、8分の距離。
ただ、光の本音は別にあった。
光としては、他の巫女から「呆れ」の目で見られ、母親の美紀からも厳しく叱責されてうなだれて歩く華奈が心配でしかたがない。
「華奈ちゃん、顔をあげて」
こういう華奈が下を向いた時の、光はやさしい。
華奈が涙目で顔をあげると、さらにやさしい。
「華奈ちゃんは、明るい顔のほうが可愛い」
華奈は、それでも涙目。
「だって、お姉さん方は、みんな呆れて私を見るしさ」
「母は冷酷そのもの、鬼母だしさ」
顔をあげながらも、ブツブツと言う。
光は、そんな華奈の手を、すっと握る。
「いいよ、そんなこと気にしない」
華奈は、その手をオズオズと握り返す。
しかし、その光のやさしさが、うれしいのか涙をポトポトとこぼしている。
さて、光と華奈のそんな様子を「見逃すはずもない」巫女連中は落ち着かない。
楓
「あれは華奈ちゃんの、困った時の常套手段」
春奈
「泣くと、何とか光君が助けてくれると思っている」
ソフィー
「だから、成長しないの、呪文を覚えないし間違うの」
由香利
「明るくていい面もあるけれど、もっと自分を律しないとね」
由紀
「それだから、唐招提寺?」
ルシェール
「戒律でがんじがらめに、律したほうがいいかも」
キャサリン
「まさに見え見えの華奈ちゃんの戦略」
サラ
「呆れるけれど、それを光君が甘やかす」
春麗
「ほんと、大混乱では足手まといかなあ」
・・・・特に「候補者巫女」たちは、文句タラタラ状態になった。
母親巫女世代は、また違う。
圭子
「妹感覚かも」
ナタリー
「光君は、ナマケモノだけど、弱い者はほっておかない」
ニケ
「だから、強い女の子には、引き気味、私のソフィーとかさ」
奈津美
「どうなんだろうねえ、恋愛対象としては見ていないだろうね」
美紀
「今の華奈だと、恐ろしくて光君の彼女にはできない、迷惑かけちゃいそう」
母親の美紀だけが、「候補者巫女」の考えに近いようだ。
さて、確かに薬師寺と唐招提寺は近い。
少し歩いただけで、唐招提寺の南大門が見えてきた。
そして、開かれた南大門の先に、「天平の甍」と称された、その荘厳な金堂が見えている。
光は、華奈の手をギュッと握った。
「気持ちを引き締めないと」
華奈も涙を拭いた。
「うん、光さん、泣いてごめん」
華奈も光の手を強く握りなおしている。