奈良林神社にて(3)
さて、10年以上前の話を口撃されて、ほぼ「ショボン」状態の光に、強力な助っ人が現れた。
まずはキャサリンである。
「そういう光君をしっかりとサポートするのが、お嫁さん候補の大事な役割なのでは?」
サラも指摘が厳しい。
「光君の周りについていながら、そういう失態をおかさせてしまうのは、巫女としても怠慢の限り、とても光君のお嫁さんを任せるわけにはいきません」
春麗も強い態度。
「そういう光君を見ているだけの態度、見守るだけの態度が、光君を危険にさらすんです」
「去年の夏のコンサートの悪らつな化粧品会社社長との一件、大聖堂前でのミノタウロスとドラキュラとの戦い、富士山麓での大悪神アーリマンとの戦い」
光の叔母圭子も、それは同意見らしい。
キャサリン、サラ、春麗に頭を下げ、話しはじめた。
「確かに、私たちの、そういう甘さが光君を危険にさらしたことは否定しがたい、ついつい大丈夫だろうと思ってしまって、ウカツな部分も多かった」
同じく叔母の奈津美も、厳しい顔。
「近くに住みながら、結局、ほったらかしにしてしまった」
「菜穂子姉さんが亡くなった後、もう少し私が面倒を見るべきと思ったこともあります」
同じことをナタリーやニケも感じたようだ。
少し下を向いている。
また、由香利と由紀は、どう対応していいのかわからない。
由香利
「うーん・・・そう言われればそうなんだけど・・・楓ちゃんも文句を言うだけって感じ」
由紀
「光君は人に頼りたくないタイプ、大ボケの時もあるけれど、そんなに何年も思い出して責めるべき話?」
春奈の母美智子が、口を開いた。
「たかだか、お饅頭の話で、ずっと責めるのもよくない」
「そういう責めが積もって、光君の心の傷を埋めないんだから」
「そして、それが心の壁になって、他人を拒絶することになる」
その美智子の言葉は、母親世代の巫女はもちろん、「候補者世代の巫女」にも、響いたようだ。
まず楓が光に謝った。
「ごめん、光君、言い過ぎた」
華奈は、泣いている。
「私がしっかりしていないのが悪かった」
ソフィーは、光の手を握った。
「ついつい文句を言っちゃう、悪いとは思うんだけど」
さて、当の光は、何とも言えない表情。
「いいよ、そんなことで」
「気にしていない」
「誰も悪いことをしているわけじゃないし」
「言いたいこと言ってもらっていい」
「変に気を使われるほうが、背中がかゆくなる」
春奈が、光のもう片方の手を握った。
「ねえ、光君、お昼にしよう」
「そろそろお腹減ったでしょ?」
「何食べたい?」
さっきよりは、やさしい口調。
光は、少し考えた。
「うーん・・・」
そして恥ずかしそうに答えた。
「たまには、関西風のニシン蕎麦」
「それと、関西風のおでん」
春奈は、光の手をギュッと握りしめた。