お饅頭をどこで食べるかで論議
いつのまにか、「異変」は終わっていた。
光は、純白のマリア像の前でルシェールと手を握って立っているし、他の巫女たちも、教会での「不思議なミサ」に向かう前の「立ち位置」。
いきなり、光が後ろを振り返った。
そして、春麗に声をかける。
「ねえ、春麗、お饅頭の神社に行くんだけどさ」
何とも、緊張感あふれる「ミサ」のあとの、間延びした声。
これには、さすがの春麗も、頭を抱えた。
「あのさ・・・光君・・・仮にも聖母マリア様とイエス様の御言葉を聞いたんだよ」
「もう少しさ、厳かな雰囲気とかさ・・・」
「それをいきなり、私を名指しでお饅頭の神社って・・・」
しかし、光は、「やはり無粋の光」だった。
ルシェールの手を簡単に「振り払い」、スタスタと春麗の前に。
そしてまた意外な発言。
「すぐそこに、お菓子屋さんというか、老舗の和菓子屋さんがあるの」
「そこでお饅頭を買って、食べ歩きしない?」
「お饅頭の神社に行くんだから、お供えもいるしさ」
そんなことをされたルシェールは、怒りと涙顔。
「はぁ・・・光君は、どこまでアホで無粋なんだろう」
「これでは聖母マリア様はお嘆きになるし・・・」
「イエス様も呆れているに違いない」
光に目の前に来られた春麗も複雑。
「え?こんな街中で、お饅頭食べ歩き?」
「私だってね、小学生じゃないって」
「可憐な女子高生にお饅頭を食べ歩きしろっていうの?」
そんな一悶着の中、やはり「食べるものには我慢できない」楓が、割って入った。
「いいよ、若い子たちは、全員で食べよう」
「そうすれば目立たないしさ」
と、声をかけ、今度は楓が光の腕を引き、目と鼻の先にある和菓子屋に歩きだす。
そして、その「若い子」という表現につられたのか、「若い候補者巫女全員」が、楓と光の後を歩きだした。
ただ、ちょっとためらったのが、春奈とソフィー
春奈
「うーん・・・この年で恥ずかしい」
ソフィー
「食べたいことは食べたい、緊張感のあるミサの後の甘い物は美味しいけど」
春奈
「このまま、あの子たちの後について歩くと、楓ちゃんが『若い子だけ』って言いそう、それが嫌だ」
ソフィー
「私は春奈さんより、少し若い」
春奈
「二つだけでしょ?同じようなもの」
ソフィー
「いや、その二つの差は大きい」
・・・・・
結局、そんな程度の口争いで、春奈とソフィーは一歩も動かない。
母親世代の巫女はまた違う。
圭子
「私も、この界隈では知られた顔で、食べ歩きはねえ・・・」
奈津美
「そうね、店の中ならいいかなあ」
ニケ
「ミサの後ですし、休憩しましょう」
ナタリー
「費用は教会で持ちますよ」
美紀
「店の中で食べたほうが、華奈の粗相が目立たないかなあ」
ということで、お饅頭は「全員、店内で」食べることになった。