光が思い出したこと
見渡すばかりのお花畑ではあるけれど、その中にはピンク色の花をつけた木がたくさん立っている。
また、足元で咲いている花は、アネモネの赤い花や小さく華奢なラケフェット(野生のシクラメン)が多い。
巫女たちの中で、さすがは地中海地方出身、アルテミスの巫女サラが、その木に気がついたようだ。
うれしそうに、その木に近づいていく。
「これはアーモンドの木」
「ほぼ、日本では栽培されていない木になります」
サラの驚いたような声が聞こえてきた。
それには、光も、また他の巫女たちも驚いた。
「へえ・・・遠くから見ると、まるで桜みたい」
圭子
「これがあのアーモンド?へえ・・・きれいねえ・・・」
奈津美
「お菓子とかオイルとか、使い道が多いけれど、その花もきれいだねえ」
医師である美智子も驚きながら説明する。
「食品の中でもビタミンEが最も多いの」
「ビタミンEは、活性酸素による体細胞や血管の酸化を防ぐ抗酸化作用があって、老化の予防に効果がある」
「悪玉コレステロールの酸化を抑制し、豊富な食物繊維を含み、腸の働きを活発にして整腸を促す」
美紀は、宗教史学者として別の意見
「そういえば、その効用が紀元前から認められていて、旧約聖書の中のどこかに書いてあったかも」
「確か、モーセの兄アロンの杖が、アーモンドの木でできていて」
「イスラエルの祭司族の祖となるレビが選ばれた。そしてそのあめんどうの杖は、契約の箱の前に保存されているとか」
さて、聖母マリアの巫女ルシェールは、そんな話をニコニコと聞きながら、光の手を、しっかりと握りなおした。
そして、光の手を引きながら、歩きだす。
その前方には、純白の大理石でできた祭壇が立っている。
光がルシェールに尋ねた。
「ねえ、ルシェール、あそこに集まるの?」
ルシェールは頷いた。
「そういうこと、聖母マリア様から、御言葉があります」
「それと秘薬」
ルシェールは、そこまで言って、顔が赤くなった。
しかし、光には、ルシェールの顔が赤くなる理由がわからない。
白い大理石の祭壇で、ミサとか聖母マリアの御言葉があるのは、まだわかる。
しかし、そんな厳粛な雰囲気で、ルシェールの顔が赤くなる必要はないと考えている。
ルシェールは、そこでまた光に
「ねえ、秘薬って、光君・・・全く記憶がないの?」
「飲んだ経験あるでしょ?」
「ないとは言わせないよ」
少し、強めの言葉が続く。
光は、珍しいルシェールの強い言葉なので、記憶を必死にたどる。
・・・・そして、思い出した。
「ルシェール・・・もしかして、あの時?」
その光の顔も赤い。
ルシェールは、光の手を握りなおした。
「まったく・・・この鈍感男」
光も、ルシェールの手をしっかり握りなおしている。