聖母マリアの出現(2)
「あれ・・・」
真っ白い霧の中を進む光の身体が、ビクッと反応した。
そして、震えだした。
その光をルシェールが組んだ腕で支える。
「どうして・・・」
光の唇も震えだした。
ただ、震えだしたのは、光だけではない。
叔母の圭子と奈津美、ニケ、ナタリー、美智子、美紀の母親巫女たちも震えている。
楓がつぶやいた。
「もしかして・・・この音楽・・・」
光り輝く教会の中から、聞き覚えのある音楽が聞こえて来る。
華奈も、気がついた。
「うん、これ、ペルゴレージの悲しみの聖母」
「去年のクリスマスコンサートで光さんが指揮した曲」
春奈は、震える光が理解できない。
「だって、この曲って、光君のお母さんの、お葬式で流した曲って聞いたことあるよ、それをあえてクリスマスコンサートで演奏したのに」
「・・・実は・・・お母さんの死を克服できてなかったの?」
ソフィーは心配そうな顔。
「それは・・・それほどのトラウマだと思うよ」
「そんな簡単に一曲演奏しただけでは・・・」
そんな、少々動揺の雰囲気を見せる奈良系の巫女たちではあるけれど、それ以外の巫女たちは、そうはならないようだ。
由香利がまず、口を開いた。
「光君は、そこまで弱くないよ、もっと別の理由で身震いしているだけ」
由紀も落ち着き払っている。
「奈良の巫女さんたちのほうが、光君のお母さんの葬式がトラウマになっていると思うの」
「だって、光君の身体から出ているオーラは、明るいよ」
「悲しみのオーラじゃない、まるで遊びに行くようなオーラになっている」
キャサリンも、由香利と由紀の意見に賛成した。
「何しろ聖母マリア様のお導きです、悪いようにはなりません」
「ルシェールだって、それを意識しているから、光君をつかまえて離さない」
サラは、少々、口惜しそう。
「本当にルシェールは強いなあ、あっという間に腕を先に組まれてしまった」
「私も、スキを見て、光君と腕を組んでみたい」
「とにかくチャンスを探さないと・・・」
春麗は、そんなサラに笑う。
「ねえ、順番で腕を組むってどう?」
「公平にね」」
さて、そのような状況の中、光と巫女たちの一行は、聖母マリアのお導きで、教会の中に入った。
そして、驚いた。
光は入るなり目を丸くした。
「え?何?ここ・・・どこ?」
ルシェールは、ニコニコしているだけ。
再び、聖母マリアの厳かな声が聞こえてきた。
「ここでミサを行います」
しかし、いわゆる教会内部の風景ではない。
見渡すばかりの大花畑が広がっている。
そして、不思議にして、高貴な香りが漂っている。