若宮十五社めぐりと、光
光たちの一行は、春日大社本殿での特別で不思議な参拝を終え、春日大社の若宮十五社をめぐることになった。
光の本音としては、「この不思議な神楽の後、歩くのは大変、疲れる」となっているけれど、周囲の巫女たちは「歩く気満々」であり、万が一本音を口に出そうものなら、「一斉に集中して怒られる」となることは必定なので、とても口には出せない。
そして、その心理は、巫女たちには簡単に見抜かれている。
その巫女たちの中で、春奈が、ズイと光の隣を歩きだした。
「ねえ、光君、腕組んであげようか?」
「最近、組んでないよね」
「まーったく寂しいなあ」
「ちょっとでも疲れたとか何とか言ったら、お尻蹴飛ばす」
楓が、春奈の「お尻蹴飛ばす」発言に、即座に反応した。
「ねえ光君、一度、疲れたって言ってくれる?」
「私、一度回し蹴りってやってみたいの」
楓はそこまで言って、実際に蹴飛ばすための準備運動も始めている。
光は、この流れになると、どうにも抗しがたいと思った。
表情を変えて
「さあ、歩きましょう!」
と、けなげに歩きだす。
「歩きだされてしまった」春奈と、「回し蹴りが出来なかった」楓は、少しガッカリするけれど、歩きだされてしまっては仕方がない。
春奈
「あーーーいう立ち回りが、気に入らない」
楓
「いつのまにか、由紀ちゃん、キャサリン、サラ、春麗が前後左右固めているし」
春奈
「戦闘ではかなわない」
楓
「でも、回し蹴りはしたい」
・・・・・
そんなブツクサはあったものの、光の前にまた不思議な神職が登場し、一行の先導しながら説明を始めた。
「春日大社のご神域には、先ほど参拝なされた四柱の神様のほか、霊験あらたかな神様が摂社・末社を合わせて六十一社お祀りされています」
「境内南側には若宮様がご鎮座され、若宮様を中心に、人が生涯を送る間に遭遇する様々な難所をお守りくださる神々が、お鎮まりになられております」
「三輪神社は少彦名様。子孫の繁栄、子供の無事成長をお守りくださる神様」
「兵主神社は大巳貫命様。延命長寿をお守りくださる神様」
「南宮神社は金山彦神様。金運をご守護くださる神様」
「広瀬神社は倉稲魂神様。おいなり様とご同神で衣食住をご守護くださる神様」
「葛城神社は一言主神様。心願成就の神様、一言を願えば叶えてくださります」
「三十八所神社は伊弉諾尊様、伊弉冊尊様、神日本磐余彦命様。皆さまご承知イザナギ様、イザナミ様、神武天皇様になります。日本という国の根幹となる神様」
「佐良気神社は、蛭子神様(恵比寿神様)。商売繁盛、交渉成立をお守りくださる神様」
「春日明神遥拝所はそのまま、春日皇大神様。ひらめきの神様」
「宗像神社は市杵島姫命様、諸芸発達をお守りくださる、七福神の弁天様とも伝えられる神様で天河弁財天と伝えられています」
「紀伊神社は、五十猛命様、大屋津姫命様、抓津姫命様。万物の生気、命の根源をお守りくださる神様」
「伊勢神宮遥拝所は、その名の通り、天照坐皇大御神様の内宮と豊受大御神様の外宮を遥拝します。天地の恵みに感謝する所になります」
「元春日枚岡神社遥拝所は天児屋根命様と比売神様。延命長寿の神様」
「金龍神社は金龍大神様。開運財運をお守りくださる神様。後醍醐天皇ゆかりのお宮です」
「最後の夫婦大國社は、大国主命様と須勢理姫命様。夫婦円満、良縁、福運守護の神様、日本で唯一ご夫婦の大國様をお祀りした大國社となります」
「実際は若宮様の隣になりますが、めぐって来るので、ここが十五番目となります。
不思議な神職の一つの社ごとの説明が終わった。
巫女たちは、それぞれ興味深そうに、それぞれの社を参拝していたけれど、光は途中から疲れていた。
ほぼ、眠りながら足だけは動かしている状態になっている。