不思議な春日舞
純白の衣装に身を包んだ不思議な神職に先導された光たちの一行は、特別ということで、春日大社の内奥の本殿に入った。
さて、春日大社は、約1,300年前、平城京が開かれた時代に、遠く茨城の鹿島から武甕槌命、千葉から経津主命、また大阪の枚岡から天児屋根命・比売神を招き、あわせて祀ったことが起源となる。
そして、その祭神である武甕槌命・経津主命は、日本の国を秩序ある国にするためにあらゆる神々と交渉された最強の武神。
また、天児屋根命様は神事と政治を守り導かれる神。
比売神様は天照大御神様あるいは、天児屋根命様の妃神とも伝えられており、平和と愛の尊い神。
そして、この四柱の神々は、それぞれ端正な春日造の御本殿に鎮座され、春日皇大神あるいは春日四所明神、春日大明神とも称されている。
「それでは」
不思議な神職からの言葉があった。
光が威儀をただし、二拝二拍手一拝を行うと、光の後の巫女たちも、それにならう。
次の瞬間だった。
異変が起きた。
春日大社本殿前にいるはずの光たち一行の前に、不思議な芝舞台が突然、出現した。
春日大社の本殿は、その出現したその舞台のため、既に見えない。
すると、神楽のような音楽が聞こえてきた、
目を見開くと、まず伴奏者なのだろうか、芝舞台の東側に西面して着座し、巫女の装束を着た若い女性たちが琴を弾いている
また、笏拍子を打ちながら歌う巫女と、それに合わせるように銅拍子と小鼓を打ちながら歌う巫女が見える。
神楽笛を奏する笛役は、かなり高貴な神職の服装をしている。
そして 正装した六人の巫女のが現れ、「進み歌」に合わせて、楽舎から舞台まで敷き延べられた座の上を、桧扇を胸にかざし、ゆっくりと進んでくる。
「これはは巫女舞の進み歌で、鶴の子?」
光は、にっこりと笑った。
「はい、光君の感じた通り、春日大社の御神楽」
叔母の奈津美が、光に応えた。
「うん、懐かしいわね」
叔母の圭子は、うっとりと舞台を見入っている。
叔母の奈津美が、涙ぐんだ。
「光君のお母さんも、私も、圭子さんも、実は・・・この神楽で踊ったの」
「みんな若くて、いい頃だった」
圭子も、泣き出している。
「あっ・・・」
神楽を見ていた光が、突然、立ち上がった。
正装した六人の巫女の中から、一人の巫女が、進み出て、踊り始めた。
光は首を傾げた。
「これは、松の祝いという曲、でも・・・一人舞をしているのは・・・あれ?」
「どうして?・・・顔が・・・はっきりしない・・・でも・・・」
踊りが進むにつれて、その一人舞の巫女の身体が、ますます輝いていく。
次に六人舞の「宮人」、四人舞の「祝言」と合計四曲が舞われ、「立ち歌」になっに進む。
光は首を傾げたままになっている。