サロンバス内の神霊の会話、春日大社へ
ホテルでの朝食が終わると、早速出発になった。
光たち一行と八部衆、そして金剛力士まで乗り込んだので、サロンバスは満員状態。
その中で、金剛力士の阿形が光に尋ねた。
「四天王は人間の姿にしなかったのか?」
光がフッと笑うと、鳥の神から人間に変化したカルラ神が、答えた。
「ああ、あんなゴツイ奴らは、お前たちだけで十分」
そのカルラ神の返事に阿形は、悔しそうな顔。
「俺たちだって、好きでこんな厳めしい顔してるわけじゃない」
いつもほとんど言葉を発しない金剛力士吽形は、ますますブスっとした顔になる。
八部衆の中でも、可愛らしい顔をしたサカラ神(龍神であり釈迦誕生の際に清浄水を注いだという伝説を持つ)も笑い出した。
「ほんと、金剛力士といい、四天王といい、全員そのまま人間に変化したら、怖くて周囲の人間が逃げ回る」
その言葉に、他の人間に変化した八部衆も全員笑い、金剛力士二体はますますムッとした顔になった。
光が口を開いた。
「そういう意味があって、四天王にはそのまま、結界を張ってもらっている」
ただ、光の口から出て来る言葉の響きは、阿修羅そのものになっている。
さて、サロンバス内で神々や神霊が話をしているけれど、巫女たちは驚くやら笑うやらで、何の話もできない。
そして、そのまま春日大社の駐車場に着いてしまった。
サロンバスを降りると、それでも金剛力士阿形が光に皮肉。
「こんな程度の参道も歩く体力がないなんて、成長を感じない」
「去年の夏と変わらん」
それは光には図星だったようだ。
「ウッ・・・」
と言葉に詰まり、他の八部衆は全員が阿形にクールサイン。
おまけに、巫女全員もその動きに同調した。
光は、それでも反発する。
「そう言ったってさ、春日大社の参道は長いし、本殿までは遠いし、歩くと時間かかるし」
「予定も多いしさ」
ブツクサと下を向いて言うけれど、誰も聞いていない。
それでも春日大社の本殿前に一行は到着した。
そして、光の叔母圭子が全員の前に立った。
「特別に、内奥の本殿で参拝をしていただきます」
と、全員に向かって頭を下げる。
圭子に対して、全員が頭を下げると、圭子の横に一人の神職が姿を現した。
圭子は、その神職に頭を深く下げ、
「このお方の説明を受けることになります」
と、全員に伝える。
その神職も深く一行に礼をするけれど、見る限り、純白の衣装に身を包んだ、かなりな高位の神職。
神職から言葉があった。
「それでは、阿修羅様、八部衆の神々様、金剛力士様、そして巫女様方」
「ようこそのお運びを、心から感謝申し上げます」
「春日の神々がお待ちしております」
「この私がご案内をさせていただきます」
光が一行を代表して
「これはこれは・・・よろしくお願いいたします」
と、言葉少なに頭を下げると、その神職は一行を先導し、歩き始めた。
緊張感が漂う中、華奈がポツリと一言もらしてしまった。
「あの神職の足・・・地面についていない・・・」
楓も頷いた。
「うん、この世の人じゃない」
ただ、華奈も楓も、すぐに口をつぐんだ。
何しろ、周囲の緊張感が凄まじい。