ルシェールの冷静さが光を救う
完全に大騒ぎになってしまった「候補者巫女」の中には、それでも冷静なタイプもいる。
ルシェールは、シャワーの音に気がついた。
「おそらくね、光君、シャワーだと思う」
ルシェールの言う通り、それらしき音が、聞こえてくる。
それでも華奈は首をひねる。
「ホテルの部屋のドアを開けたままシャワー?」
楓は、目の前の蜘蛛に震えながら、
「まあ、ウカツで大ボケの光君なら、ありえる」
由紀も分析した。
「よほど急いでいたのか、それとも、すぐに汗とか流す必要があったのか」
由香利は、光の日常生活を思い出した。
「とにかく、一人で住んでいる時も、キチンとした清潔な印象」
「制服のアイロンがけとか、いつも完璧だった」
キャサリンは、しゃがみこんだ。
そして、ホテルの部屋と廊下のカーペットをじっと見る。
「そうですね、けっこうな泥がついています」
サラは、衣服ロッカーの中にあった光の靴を見た。
「うん、カーペットの泥と一緒、少し木の枝の細かいのがついたまま」
春麗は、断言した。
「つまり、光君は、すでに春日山に入ってきてしまった」
「そして蜘蛛、その不思議な蜘蛛を捕獲してきたんだけど・・・」
「その際に、汗もかいたし、泥などがついてしまった」
楓は、そこまで聞いて、その蜘蛛から後ずさりしながら、立ち上がった。
「私を気にしたのかな・・・蜘蛛嫌いの私を・・・」
華奈も、楓の意見に同調した。
「きっとそうだよ、楓ちゃんに無神経って思われたから、気をつかったんだよ」
そんな話になり、「全ては光がシャワーから出て来てから」ということになった。
数分して、バスローブ姿の光が、シャワーから出てきた。
その当の光は、目の前に群がる巫女たちを見て、あ然。
そして文句をいいはじめた。
「あのさ、みんなね、ノックもしないで、勝手に入ってきてさ」
「このバスローブだって、テレビを見ながら羽織ろうと思ったのに」
「なーーんか、変な不安を感じるから、しょうがない、着て出てくれば」
「それより何より、どうしてここに全員が揃っているの?」
全ての「候補者巫女」が、光の反論に頭を抱える中、それでも由香利が光を見つめて話し始めた。
「あのね、光君」
「そもそもね、今は朝食の時間なの」
「それで、光君と食べたいなあと思って、ここまで来て」
「そしたら、鍵はかけていないし」
「不思議な蜘蛛はいるし、光君はいないし」
「こっちが不安になるの、光君」
由香利の言うことは、全く「正論」。
光は、由香利に言われると、つい腰がひける。
そもそも、憧れの「美人先輩の由香利さん」なのである。
ところが、冷静なルシェールが、サッと光をフォローする。
「ねえ、光君、一人で山に入って、蜘蛛さんを見つけて来てくれたんだよね」
「ありがとう、大変な思いをしたんだよね」
「泥まみれになって、汗まみれになって」
「ドアに鍵をかけるのも、忘れちゃったんだよね」
ルシェールのフォローを受けた光は、ホッとした顔。
「うん、鍵はゴメン、そんなところ」
「それと、すごく汗かいちゃって」
ルシェールは、またやさしい言葉をかける。
「じゃあ、着替える?蜘蛛さんは、このまま?」
光は、少し考えている。