母親世代の巫女の分析会議
春奈は、母美智子の真面目な顔が気になった。
「ねえ、母さん、何かあったの?」
美智子の真面目な顔は変わらない。
そして、母親世代の巫女、圭子、奈津美、美紀、ナタリー、ニケに目くばせをして、最後にソフィーを手招きする。
ソフィーも、母親世代の巫女たちの「ただならない雰囲気」を察知したのか、すぐにホテルのフロントに直行、特別室を確保した。
その特別室に入るなり、美智子が極めて厳しい顔で話しはじめた。
美智子
「それでね、かなり厳しい疫病が東南アジア方面で流行り出しているの」
「まだ、抗生物質ができていない、新種のもの」
春奈は、保健室の担当ではあるけれど、その情報は耳にしていない。
「聞いたことないなあ・・・でも・・・」
少しだけ、思い当たることがある。
そして、美智子に質問する。
「もしかして、渋谷の航空機の中みたいな?」
その春奈に美智子は、深く頷く。
「うん、蠅の羽音そのものに毒が含まれている」
「一匹ぐらいでも、まず人の眠気を強く催させる」
「二匹の羽音を聞けば、一瞬にして眠らされてしまう、そしてなかなか眠気が覚めない」
圭子はじっと目を閉じて、分析する・
「耳から入り、脳の動きを無力化するのか」
「痛みが伴わないだけに、危険」
ソフィーはタブレットを取り出し、東南アジア方面の事件情報を調べている。
「確かに交通事故が多発傾向にあります」
「その原因が居眠り、意識混濁によるものが、8割以上を占めています」
「これは普通ではありません」
奈津美の目も厳しくなってきた。
「渋谷で、光君、つまり阿修羅がつかんでしまった航空機は、停電で計器類も全て停止したとか」
ナタリーは腕を組んだ。
「つまり、全ての活動をするものを、睡眠状態に導く疫病かな」
ニケも口を開いた。
「光君は、その航空機をつかんだ後、相当の憔悴。それを華奈ちゃんの鏡の浄化の秘法で持ち直したんだよね」
美紀は、それに頷いた。
「華奈にしてはよくやった。私たち伊勢の巫女の基本的な呪法だけど、今回は邪霊の力も相当なものだったから」
美智子が圭子の顔を見た。
「今回の蠅の神は阿修羅をどうやって倒そうというの?」
圭子は、じっと目を閉じたまま。
「真正面から阿修羅に勝てる神などはいない」
「それだから、人々を眠らせてしまう強い毒をしかける」
「そして眠らせている間に、様々な仕掛けを行う」
「ますます、意識を失わせる、全ての活動を停止させてしまう蠅を大量発生させる」
「途中で目覚めたとしても、その大量発生した蠅の羽音で、また眠らされてしまう」
「生物をはじめとした全ての活動が停止するのだから、世界は大混乱と混沌に巻き込まれる」
「しかし、これなら阿修羅としても、直接の戦闘ではないから、対応が難しい」
ソフィーが、そこで、本当に厳しい顔。
「おそらく・・・その次の仕掛けもあるかもしれない」
「光君、つまり阿修羅がしきりに四天王を意識するのも、結界を強化して、その動きを封じるため」
そのソフィーに美智子が声をかけた。
「とにかく全ての空港、港湾を含めて、まずは検疫強化を」
ソフィーは深く頷いている。