東大寺二月堂にて
二月堂の長めの階段をのぼりながら、楓は光に文句を言い続ける。
「だいたい何?そもそも光君は私に会いに来たんでしょ?」
「それが、可愛い女の子たちに囲まれているからって、私に近寄って来ないじゃない!」
「そういうのがアホっていうの!」
・・・・・ここでも、長いので省略。
そして、光は「ただ、ウンウン」と頷くだけの状態。
その二人を見ている、圭子。
「あの姿は、幼児の頃から何も変わっていない」
奈津美も、苦笑している。
「光君も、ただ聞いているだけ、聞き流しているかも」
華奈が、楓の後ろ姿で、ちょっと文句。
「それにしても、あのお尻は、すごいなあ・・・お尻が歩いているみたい」
「どれだけ食べれば、あのお尻になるのかな」
ルシェールは、楓の言い方が気に入らない様子。
「あれはひどい言い方、そもそも光君は女の子には亀なんだから気にしなくてもいいのに」
褒めているのかけなしているのか、よくわからない。
由香利と由紀は、少し光奪取計画を考えたけれど、途中であきらめた。
由香利
「どうせ、光君のことだ、何も聞いていないしさ、結局後で、光君が下を向くと、楓ちゃんが言い過ぎたって、すり寄るだけ、いつものパターン」
由紀
「それに楓ちゃんのいうことは、一々ごもっともだ、たまには叱られるのもいいさ、でも光君は何も聞いていないから同じ」
春奈とソフィーは、「また仲介して面倒になるのは嫌」と言って何も言わない。
キャサリン、サラ、春麗は、「楓に叱られる光」が本当に面白いらしい。
ニコニコとして、見ているばかりで、階段をのぼっている。
さて、そんな状態ではあったけれど、一行は二月堂の階段をのぼり終えて、お堂前の回廊部分に到着した。
そして眼下には、奈良の風景が一面に広がっている。
楓が光の腕をグイッと組んだ。
「ね、夕焼けに間に合ったでしょ?」
「だから言ったの、わかる?光君」
階段をのぼっている時などの「お怒り口調」とは全く異なり、やさしい声になっている。
光は、その楓に応えた。
「そうだね、楓ちゃん、子供の頃からここ、大好きだったよね」
光の声も、やさしい。
圭子がポツリ。
「あの二人の後ろ姿は、子供の頃と同じ、それはそれで面白い」
美紀が、ここでも説明をはじめた。
「この東大寺二月堂は、大仏殿の東にあたり、東大寺境内のなかでもかなり高いところにある建物です」
「毎年3月のお水取りの舞台として有名、本尊は十一面観音菩薩、秘仏とされています」
「急な斜面の上に建てられたので、京都の清水寺みたいな舞台造」
「それだから、今、見ているように、お堂前の回廊部分からの眺めは見事」
「大仏殿の屋根をまん中に東大寺の境内が見わたせるし、そのむこうに奈良の町も眺められる」
全員が、夕焼けの中、眼下に広がる風景に見とれていると、美紀は説明を続けた。
「お水取りと呼ばれている儀式は、3月に2週間くらい行われます」
「正式には修二会、そのなかでも3月12日の深夜に行われる儀式が本当の意味でのお水取り」
「修二会は、1年間にすべての人が犯した過ちを、その人に代わって本尊の十一面観音にざんげする儀式で、奈良時代から1回も途切れずに続いています」
美紀の説明はここまでだった。
本当に美しい夕焼けが奈良の街を包み込んでいる。