不思議な風景 そして光の涙
不思議な風景の中、光と巫女たちは、周囲を見回している。
いつのまにか、身体も動かせるし、言葉も出るようになっている。
光は、首を傾げた。
「ここは・・・どこ?」
光の隣で、可愛らしく美しい声が聞こえてきた。
「光君、これは、極楽浄土というところ」
「といっても、すごく広い場所なので、果てしなく広がっています」
光が驚いて隣を見ると、東大寺四月堂の十一面観音が立っている。
光は、さらに驚いた。
「まさか・・・どうして・・・ここに・・・そのうえ、御言葉まで」
十一面観音は、その愛らしい顔で、やさしい応え。
「光君も巫女様たちも、何も心配はいりませんよ」
「全て阿修羅様と私の思いからなのです」
十一面観音の御言葉と同時に、周囲の風景が変化した。
七重の欄干、七重の鈴をつけた網。
七重の並木が見えてきた。
そして、それらの全ては金・銀・瑠璃・水晶の四種の宝石からできている。
十一面観音の声がまた聞こえてきた。
「これは、この極楽をあまねく取り囲んでいます」
光と巫女たちは、言葉の出しようがないほど、周囲の風景に見とれていると、いつのまにか、場所が変わり、目の前に不思議な池が見えてきた。
「これは七宝池といいます、七種の宝石で飾られております」
「池の水は、八種の特性を持つ水で満たされ、その底には金の砂のみ」
「また、池の周りの四方の階段は、金・銀・瑠璃・水晶の四種の宝石からできています」
「それから、池の中の蓮は、地上よりもかなり大きいはず、車輪くらいでしょうか」
「青い色の花には青い光、黄色い花、赤色の花、白色の花には、同じようにその色の光があります」
確かに、清らかでかぐわしい蓮の花が浮かんでいる。
この説明も、十一面観音の声。
あまりの素晴らしさに光と巫女たちが見とれながら歩いていると、次第にその階段の上に、高殿が見えてきた。
「金・銀・瑠璃・玻璃・硨磲・赤珠・瑪瑙で飾られています」
「硨磲は、大きな美しい貝のことです」
光たちは、またしても見とれているしかない状態。
「それでね、光」
十一面観音は、極楽浄土の説明から、また何か違う話をしたい雰囲気。
ただ、その声の雰囲気が、今までの十一面観音とは異なっている。
「はい」
光が、十一面観音に向き合うと、また異変が発生した。
そして、光の身体が一瞬、硬直。
「え・・・あ・・・」
「マジ?」
「本当に?」
光は、泣き出してしまった。
泣き出してしまって、もはや声も何も出ない光の隣に、奈津美叔母が立った。
そして、同じように泣き出した。
圭子叔母も、光の隣に立った。
圭子も泣き出している。
楓、華奈、美紀、ルシェール、ニケ、ソフィー、美智子、春奈も顔をおおって泣き出してしまった。
「・・・母さん・・・」
光の声が震えた。
十一面観音の姿は、光が小学6年の時に絶命した母菜穂子に変わっている。