サロンバスの中で様々、光の寝言
せっかくのご対面なのに、「せめて一旦お茶ぐらい」ということはなかった。
とにかく、光が東大寺四月堂に行きたくてしかたがないらしいので、全員がサロンバスで向かうことになった。
それと、「東大寺四月堂」と口に出した瞬間から、光の身体全体から、オレンジ色のオーラが出始めている。
それをいち早く認めたのは華奈だった。
「うん、光さんが、そこまで言うのなら、きっと何かある」
「私でさえ、何かビリビリしたものを感じるもの」
他の「候補者巫女」たちからすれば、「ドサクサ紛れにアッサリ」光の腕を組んでしまった華奈は気に入らないけれど、この状態では仕方がなかった。
それでも春奈がポツリ。
「全く華奈ちゃんは、動きだけが早い」
ソフィーも面倒そうな顔。
「拝観時間延長願いしておくかな、二月堂からの眺めも見たいって言いだすに決まっている」
ルシェールはムッとしている。
「いいでしょう、途中で奪い取るだけ、光君も華奈ちゃんも、どうせスキだらけ」
他の「候補者巫女」も、ブツブツ文句を言っていたけれど、同じようなことなので省略。
それでも、奈良住まいの光の叔母圭子が説明をする。
「そもそも、東大寺四月堂というのは、小さなお堂です」
「本来は三昧堂という名前」
「法華三昧会が旧暦の四月に行われるため、一般に四月堂と呼ばれています」
「創建は、約千年前、現在の再建された建物は、延宝9年だから、1681年」
「二,三年前からご本尊が変わって、千手観音様から十一面観音様になっています」
そして従妹の楓も珍しく光を弁護する。
「光君の身体が、ああいう風に光る時って、絶対何かあるの」
「いつもの大ボケナマケモノの光君の時は、何やってもいいけど」
「鹿さんと観光客だらけの大仏殿ではなくて、わざわざ、あんな小さな四月堂の観音様なんだ、絶対何かある」
また、華奈の母にして宗教学者の美紀が説明をする。
「一応、確認のために、若い子たちも多いので説明をしておくね」
「まず、観音経というお経は、そもそも法華経の中にあります」
「正式には法華経の第二十五品の観世音菩薩普門品、それから独立した観音経」
「それだから、法華三昧の四月堂のご本尊が観音様」
「それと、大仏殿のご本尊は毘盧遮那仏、それは華厳経に基づいている」
・・・・・・・
サロンバスの中では、そんな話がしばらく続いているけれど、光は華奈に腕を組まれたまま眠っている。
その光を見て、奈津美叔母がうれしそうな顔。
「きっとね、光君、もう観音様とお話しているんだよ」
「もちろん、阿修羅様と観音様のレベルだけどさ」
「いいなあ、でも、この寝顔、小さな頃のまま」
「・・・可愛かったもの・・・やさしくて、いつもニコニコしていて・・・」
さて、サロンバスは右側に春日大社、左側に興福寺の道を進み、少しずつ東大寺に近づいている。
すると、光が寝言を言い出した。
それも、機嫌が悪そうな顔。
「・・・ったく・・・うるさい・・・あいつら・・・」
「ゴチャゴチャ言いはじめているなあ・・・」
「それに何?あのゴツイの二人まで?」
「げ・・・四天王?」
圭子は、その光の「寝言」を聞き取り、笑いだしている。