光の大ボケと夜の楓の危険性
伊勢神宮の外宮、内宮参拝、それぞれの不思議な御力を受け取った一行は再びサロンバスで、奈良に向けて走り出した。
光はもちろんのこと、全ての巫女が少々疲れて眠そうな顔をしていたけれど、ソフィーには全員に話があるらしい。
少し厳しめの顔で、話しはじめた。
「まず、奈良において、数々の目的地があります」
「場所的には、奈良公園一帯の春日大社、氷室神社、東大寺、興福寺、奈良町まで歩いてお馴染みの元興寺」
それを聞いた時点で、光はますます疲れたようだ。
「え?マジ?足が棒になる」
「僕は阿修羅君を見るだけにする、あ!友達の八部衆は・・・挨拶ぐらいはするかな」
しかし、それでも、今回の奈良行きを言い出したのは、そもそも光。
そして「楓とお散歩すること」が、出発点だった。
いい加減な光は、いつの間にか、それをしっかり忘れている。
その光にルシェールが、苦言。
「光君、そういうことを言っていいの?」
「楓ちゃん、絶対に怒るよ、それも、ものすごく」
春奈は、それでフフンと笑う。
「まあ、光君が楓ちゃんにコテンパンに叱られるのも、楽しみだあなあ」
「とにかく、日頃のストレスがそれで、全部消える」
由香利も笑い出した。
「そうですねえ、ほんと、すっごいよね、可哀そうだけど見ているのも面白い」
由紀はまた別の質問。
「ところで、ソフィー、宿泊場所をよく聞いていなかったんだけど、今日はどこに泊まるの?」
由紀のまともな質問に、「楓による光へのコテンパンお叱り」に気持ちが移っていたソフィーは、再び真面目顔に戻った。
「はい、政府としては、全員が同じホテルに泊まります」
「あの高台にあるクラシックなホテル」
「奈良にご実家がある方もおられますが、万が一の警備のためとお察しください」
そのソフィーの説明を聞いて、春奈はちょっとしたガッツポーズ。
心の中では、
「ふむふむ、これであの意地悪母美智子の底意地の悪い文句を聞かないですむ」
「はぁ・・・名門ホテルで安眠できる」
と思っている。
光も、ホッとした顔。
「うん、それなら安心、夜だけでも楓ちゃんから離れられる」
しかし、光はやはりウカツだった。
それを華奈がしっかり聴き取っていたのである。
そして華奈
「ねえ、光さん、楓ちゃんの夜って危険なの?」
華奈としては、ゴクゴク当たり前の質問。
要するに、楓は夜になっても「光を叱る」のかどうかが、気になったらしい。
光は、その華奈に「うん」と頷いた。
そして、ポツポツと話し出す。
「すっごく疲れている時は気がつかないけれどね」
「そうじゃない時って、どうしても気がつくの」
華奈は首を傾げた。
それでは、意味がわからない。
また、他の巫女たちも、光の次の言葉をじっと待つ。
その光が口を開いた。
「とにかくね、僕が楓ちゃんの家に泊まると、楓ちゃんは隣の部屋に寝ているんだけどさ、壁が突然、ものすごい音でドーンって揺れるしさ、寝言だと思うけれどさ、お団子なんて言い出すしさ」
「ひどい時は、歌を歌う時もある、それでなかなか眠れなくなる」
巫女たちは最初はあ然、そして手を打って大笑いになっている。