内宮(2)
光と巫女たちが内宮御正殿に近付くにつれて、太陽の光が眩しくなった。
春奈は、そこで感じた。
「うーん・・・外宮でもあったけれど、ここでも異変があるのかな」
ソフィーも、かなり眩しい様子・
「そうだね、ただごとではないね、この雰囲気」
ルシェールも、身体全体に異変を感じた。
「そうなんです、神楽殿を出た時から、もしかすると別次元かもしれない」
由紀は、周囲を見回した。
「マジで、私たちの周りに人がいません、あれほど観光客がいたのに」
キャサリンは、緊張した顔になっている。
「これは、今までと全く空気が違います、別次元というのか、空間の周波数が異なるとか」
サラは目を閉じてブツブツとつぶやく。
「はい、確かにここは異界のようです、そもそも足が地についていません」
春麗は、厳しい顔のまま分析。
「すごい霊力のある存在から・・・人のレベルではありません・・・尊い御神霊からの波動かな」
少し震えだした巫女たちに、美紀が声をかけた。
「さすが、第一線級の巫女様たちだね、よく感じ取りました」
「確かに、ここは異界です」
「しっかりと結界を張られているので、邪霊は全く入り込めません」
華奈からも、言葉が出た。
「とにかく、私たち、伊勢の大神と巫女を信じてください」
「特別の御言葉と御力が与えられます」
由香利の声が聞こえてきた。
「真っ直ぐに、御正殿に向かいます、その中でお話があります」
光も、巫女たちも、何も言わなかった。
異界であることを意識しながら、参道を進む。
そして、異界の中で、内宮御正殿が見えてきた。
ただし、異界とは言っても、内宮御正殿の姿は、「現世」と何も変わらない。
棟の上には10本の鰹木が並ぶ、唯一神明造り、古代の高床式穀倉が起源とされるものである。
ここで、突然、光が全ての巫女を振り返り、口を開いた。
「華奈ちゃんの言う通り、特別なお話、特別の御力が与えられることになる」
全ての巫女が光に注目すると、光はまた言葉を続けた。
「それと、今回お出ましになられるのは、鵜野讃良姫の御神霊になります」
「つまり、天智天皇の皇女にして、父天智天皇の父の弟大海人皇子とご結婚」
「天智天皇亡きあと、壬申の乱を経て、大海人皇子が天武天皇として御即位」
「その天武天皇が没し、鵜野讃良姫は持統天皇として御即位」
全ての巫女が、「光にしては、まともな歴史の話」をしていると思ったけれど、何しろ異界にして、内宮御正殿の前、下手な突っ込みも何もできない。
光はまた全ての巫女の顔を見た。
「最近、式年遷宮が行われたけれど、最初の式年遷宮が行われたのは、内宮では690年、外宮ではその2年後の692年」
「いずれも、持統天皇の主導の下で行われている」
光のその言葉と同時だった。
光の身体の後方、内宮御正殿が、突然巨大な鏡に変化した。
そして、眩いなどを超えた、凄まじいほどの輝き。
光と巫女たちは、その輝きの中、鏡の中に、引き寄せられ、姿を消している。