夏に第九、冬に復活
光は難しい顔をしているし、音楽部員や合唱部の由紀からも具体的な曲名が出てこない。
また、キャサリン、サラ、春麗も、この問題は難しいようで、考え込んでいる。
しかし、音楽部顧問の祥子としては、なるべく早く演目を決めなくてはならない。
そもそも演目が決まらなければ、曲が決まらなければ、練習そのものを始めることができない。
祥子は光を見た。
難しい顔をして考えているけれど、光なら何らかのアイディアを出してくれると考えた。
そして、光に声をかけた。
「ねえ、光君、どうかなあ、君の意見を聴きたいの」
祥子としては、必死の思い。
すると光は、ようやく組んでいた腕をほどき
「そうですね、今、数曲浮かんだんです、全て難しいかも知れないけれど」
そこまで言った光に音楽室にいる全員の注目が集まった。
光は、立ち上がって、黒板の前に向かった。
そして、祥子先生の隣に立つ。
光は、話し始めた。
「まず、メインの演目としてオーケストラ、プラス合唱ということで」
光は音楽室に座っている全員を見回して曲目を言い始めた。
「まずは、誰でも知っているベートーヴェンの合唱、日本だと年末定番になっているけれど、夏に演奏しても全く問題はありません」
「次にオペラの曲を抜粋、オペラそのものは難しいので、ワーグナーとかモーツァルト、ベルディ、有名なところとしては、こんな感じ」
「それと宗教曲系、モーツァルトとかベルディのレクイエム、ベートーヴェンの荘厳ミサ、ブラームスのドイツ・レクイエム、バッハもできるかな」
「あ、交響曲系ではマーラーの復活とか、難しいかも知れない、高校生レベルだと」
「そして、他にはまだ思いつきません」
光は、そこまで言って、黙った。
光の提案を受けて、音楽室の中で、様々な声があがる。
「うーん・・・第九かあ・・・・やってみたいよね」
「そうだねえ、年末というイメージだけど・・・夏もいいかなあ」
「オペラの曲・・・メインには向かないよ、前奏曲でやるのがいい」
「宗教曲関係は、また、あの大聖堂で年末にクリスマスコンサートでやるよね」
「マーラーの復活?すっごい曲ってのは知っている」
「でも、光君が難しいって言うんだからさあ・・・出来ないかも」
「うーん・・・悩むって、これは・・・」
結局、なかなか決まらない。
光が例示した曲については、祥子もかなり興味を持った。
「合唱と復活・・・オペラは難しいし、レクイエムも難しいかな」
「でもなあ、合唱と復活・・・どちらも名曲過ぎて・・・選ぶのが難しい」
「光君の指揮の個性としても、どっちをやっても、すごいことになりそう」
由紀もかなり悩んだ。
「うーん・・・合唱も歌いたいし、復活も歌いたい」
「でも、両方の演奏も練習も無理」
そんなことで、全員が悩んでいると、光が目を突然、パッチリと開いた。
そして、少し大きな声で
「僕としては、合唱も復活も振ってみたい」
「それで、夏の演奏会では・・・」
ここで、少し間があった。
音楽室全員の注目が光に集まった。
光は言い切った。
「まず、夏に第九・合唱」
「秋に復活」
光の目が、その言葉と同時に、輝きを増している。