華奈の口噛み酒と巫女たち、そして光
ルシェールの落ち着かない表情を見て、春奈もソワソワしてきた。
そして、頭に浮かんできたのは「口噛み酒」のこと。
春奈は、ブツブツと学生の時に勉強したことを思い出す。
「そもそも、日本酒造りが始まったのは、稲作が伝来した弥生時代の紀元前5~10世紀」
「その当時のお酒は、お米を口に入れ噛んだものを一度容器に移し、そのお米を発酵させて造っていた」
「この方法で造られたお酒が、口噛みの酒」
「それと、酒造りは巫女の仕事として始まったのではないかと言われている」
「つまり、若い女の子が噛んだお米でお酒を造っていた・・・」
とまで思い出して、華奈の顔を見ると、「予想通り」真っ赤な顔、かつ「ニンマリ顔」になっている。
ソフィーも、それに気がついた。
「日本酒は、お米の糖分がアルコールに分解されることによってお酒になる」
「しかし、お米にはもともと糖分が含まれていないから、デンプンを糖分に変えてから糖分をアルコールへと変えるという手順をふまなければならない」
「唾液の働きと麹の働きは同じだし・・・現代は、このデンプンから糖分に変える作業を麹がするんだけど・・・」
由紀も、相当焦り出した。
「華奈ちゃんは、古来の方法、麹の代わりに自分で口噛み、自分の唾液で?」
「マジ?神前でのお酒を通じて、間接キス?」
「いったい、いつ仕込んだ?」
それでも由香利は冷静だった。
「実は大正時代末まで、沖縄の西表島では口噛み酒が造られていたらしくてね」
「炊いたお米を女性が噛んで、それを石臼で挽き、かめに保存すると、3日ぐらいでお酒ができあがったそうです」
また、華奈の母、美紀はもっと冷静。
「みんな、焦ることないって、あれ見てごらん?」
「あの華奈の様子」
そう言われたので、華奈の様子に注目が集まる。
春奈は、また呆れた。
「華奈ちゃん、お酒弱いのに、光君と飲んで自分からつぶれている」
ソフィーは頭を抱えた。
「お正月でも、お酒飲んでつぶれたよね、あの子、成長がない」
ルシェールは、焦りからホッとした顔。
「ふむ、まあ華奈ちゃんならあり得る、すぐに背伸びして失敗する」
由紀は、目が輝いた。
「今度は私が口噛み酒を仕込んで、光君に飲ませよう、これでまた一歩光君に近づく」
ただ、キャサリンはよいつぶれた華奈に注目する。
「なんか、無理やり光君に抱き付いてつぶれている」
サラの表情が変わった。
「あれは意図的につぶれている、どこまで本当かわからない」
春麗は、華奈の意図をはっきり見抜いた。
「そうだね、華奈ちゃん、無理やり身体を光君に押し付けている、光君が困っている」
華奈の「口噛み酒による光攻略作戦」は、結局、時間的にはわずかなものだった。
春麗の言葉のすぐ後に、母親の美紀により、引きはがされてしまった。
美紀
「豊受大御神様の御前で、恥ずかしいこと、この上ありません」
華奈は、いきなり涙顔になるけれど、巫女たちからは何のフォローがない。
それでも、光だけが、華奈に声をかけた。
「華奈ちゃん、美味しかった」
華奈は、またスリスリと光の隣に座ってしまった。