お伊勢参り(7)外宮
都内からの道中、ほぼ「お菓子談義」しかやってこなかった光と巫女たちは、ようやく伊勢神宮の外宮に到着した。
そしてバスを降りるなり、華奈がやはり大騒ぎ、いつもの大声三連発となった。
「わーー!すっごく清らかな場所!」
「私のような場所だ!」
「ほんと、この清らかな風景に、私って本当にピッタリ!」
これには、華奈の母美紀は、赤面。
同じく伊勢大神の巫女由香利は、頭を抱えるけれど、美紀に促された。
「ねえ、由香利ちゃん、あの子、もうやだ、頼みます」
由香利もしかたなく、華奈に口頭注意。
「華奈ちゃん、お母様からの御指示です」
「あなたね、あなたもここの巫女なの」
「本来であるならば、あなたが、皆さまを迎える立場でもあるの」
「それなのに何?その自覚のカケラも何もない大騒ぎ」
由香利の厳しめの言葉に、華奈はションボリ、母の美紀は小声で「由香利ちゃん、もっと言っていい、泣き出すぐらいでちょうどいい」と更に促している。
ところが、突然、光が、「光にしては珍しいマトモなこと」を言い出した。
由香利と美紀の顔を見ながら
「まずは外宮先祭っていって、伊勢神宮のお祭りは、外宮からですよね」
「それだから、参拝も外宮からが正式なんですよね」
それを聞いた、由香利と美紀は、「ほおっ」と言う顔になり、華奈は小さなノートにメモを取っている。
美紀は、そんな華奈にまた呆れたけれど、美紀もかつては伊勢大神の巫女にして、世界に名だたる宗教学者、伊勢神宮外宮についての説明を始めた。
また、華奈の「大声三連発」に呆れていた他の巫女たちも、美紀の前に集まってきた。
美紀の説明は、まず由来から。
「まずね、ここの外宮が鎮座したのは、今から1,500年以上前」
「雄略天皇22年だから西暦では478年に、天照大御神の求めによって、丹波の国から食事を司る神として、豊受大御神が迎えられて、天照大御神に食事を供するようになった」
「豊受大御神を祀る御正宮の御垣内には、神の食事の場となる御餞殿があって、神に食事を奉る日別朝夕御餞祭が毎日行われています」
他の巫女たちは、まじめにメモなどを取っているけれど、華奈は途中から字がわからなくなったらしい、フンフンと聞いているフリ。
心では「よくわからないから、後で母さんに聞けばいいや」と思っている。
また、光は、途中から立ったまま眠りだしてしまったので、華奈が「チャンス!」と思い、サッと身体を支えている。
美紀は、そんな華奈と光に落胆しながら説明を続けた。
「また、鎌倉時代に、外宮の神官が外宮の祭神は、この世にはじめて出現した始原神であると説いた伊勢神道を唱え始めています」
「それと、中世以降に全国に伊勢参りを宣伝して回った人々は、外宮に所属する人が多くてね、それで外宮の信仰も全国の庶民に広がった」
さて、由香利は美紀の説明を、満足気に聞いていたけれど、途中から自分でも説明をしたくなったようだ。
美紀に目くばせをして、話はじめた。
「まず、外宮の御正殿についてです」
「四重の御垣の最奥、瑞垣の内側が内院、そこに豊受大御神を祀る唯一神明造りの御正殿があります」
「特徴としては、丸柱の掘立式、屋根は萱葺の切妻、棟の上に鰹木が並べられています」
「また、屋根の両端の千木は垂直に切る外削ぎ、内宮では水平に切る内削」
由香利は、そこで美紀に目くばせ。
美紀も深く頷いたので、話を続けた。
「御垣内は、一般参拝は出来ないのですが、皆さまは特別です」
「ご案内させていただきます」
由香利のその言葉で、全員の背筋が伸びている。