お伊勢参り(5)
光と巫女たちを乗せたサロンバスは、静岡県を抜けて愛知県に入った。
光は、珈琲とみたらし団子で、ようやく目が覚めたけれど、途中から落ち着かない。
というよりは、一生懸命何かを考えている。
その光の表情に華奈が気がついた。
母の美紀をグイッと押しのけて、無理やり光の隣に座りこむ。
そして華奈のいつもの口調がはじまった。
「ねえ、光さん、何か心配ごとあるの?」
「うん、いいよ、この私には隠し事しないでね」
「妻なんだから、安心していいよ」
いきなり隣に座られて、過激なことを言われた光は、ポカンとなるし、他の巫女たちは、「実現可能性の乏しい虚しい言葉」と思うけれど、華奈は言い出すと、しつこい。
華奈は、ますます光にスリスリ。
「ねえ、どうしたの?光さん、だーれも気にしないでいいからさ」
「ね、私には本当の事をいっていいの」
光が途中で身体をそらそうとすると、またしても強引、腕を組んでしまった。
これには、他の巫女が、完全に呆れた。
そして、母親の美紀が「代表して」、華奈をたしなめる。
「華奈、それは言い過ぎ、光君、困っているって」
さて、華奈はそんなことを言われても、光の腕を離そうとはしないけれど、やはり光は「観念」したらしい。
ようやく考え事の中身を言い始めた。
「あのさ、すっごくやばいこと、忘れていたの」
巫女たちは、そんなことは予想がついているので、光のまどろっこしい話が面倒、全員が「さっさと言いなさい」の目で、光を見つめる。
光は、ただ、そんな目には無神経、無粋なので、またモタモタと話しだす。
「あのね、楓ちゃんに、どうせ東名を走って来るんだから、珍しいもの買って来てって言われていてさ」
「それでね、東名に乗った時点で、いろいろ考えていたんだけど」
「美紀叔母さんの肩が気持ち良くて寝ちゃった」
「静岡のお茶とか、浜松のみかん・・・かなあって思っていたんだけど」
そこまで言って、光はまた考え込んでいる。
春奈は、また呆れた。
「あのさ、光君、光君が一番怖いのは楓ちゃんでしょ?どうしてウカツに忘れるの?それに静岡のお茶と浜松のみかん・・・定番過ぎない?」
ソフィーは、厳しい。
「あのさ、光君が、そうやってウカツで忘れっぽいのは、生まれつきだけどね、そういうことをすると、私たちも楓ちゃんに文句を言われるの、それわかっている?付き添いの役目を解任するとか、大暴言になるんだから」
ルシェールも珍しく怒るけれど、また別のことを言う。
「もーーー・・・一番難しい人に、どうして神経使わないの?今日、泊まれなくなるよ、私と一緒に教会に泊まる?まあ、それはうれしいけれど」
由紀は、ハラハラしてきた。
「楓ちゃんって、首相官邸の前でも、大暴言できる人だよね、おっそろしい・・・」
華奈も、怖くて途中で何も言えなくなっている。
またキャサリン、サラ、春麗も、これには対処がわからない。
じっと聞いていた由香利が、フフッと笑った。
そして、今度は由香利が華奈を押しのけて、光の隣に座り、ガッチリ腕を組んでしまう。
そして光にニッコリ。
「大丈夫、私に任せなさい、もうすぐ近くのサービスエリアに寄ってもらって」
「珍しいお土産を買いましょう、それでいいよ」
光がキョトンとなっていると、由香利は光に「何かを」耳打ち。
「え?そんなのあるの?」
光は、ますますキョトンとなっている。