光への来客と、頼み
光は一人で校長室に出向いた。
それは、光一人しか呼ばれていないので、当然と言えば当然なのだけれど、一緒に登下校どころか、半同居の巫女たちは、不満タラタラである。
まずはソフィー
「政府関係者の私でさえ、いりませんって、関係ないってどういうこと?」
春奈も、ムッとした顔。
「ちょっと喧嘩して、すぐに仲直りしたばかりっていうのに、この態度は何?」
華奈は焦れている。
「ねえ、ソフィー!相手読んでよ!私、お昼のキャサリンの時から気持ちがモヤモヤしていて、落ちつかないの」
由紀は、そんな華奈に呆れた。
「華奈ちゃん、そういうことだから力不足って言われるの、心を練れない巫女ってランクが落ちるんだよ」
そして、由紀は、結局校長室を透視している。
「うーん・・・って、結界も何もないじゃない・・・」
「いるのは、普通の人だよ・・・って・・・普通の人だけど、すごい人」
外国人巫女のキャサリン、サラ、春麗は、日本人巫女の動揺などには興味がないらしい。
そもそも、その警戒反応がないことからして、光の面談相手が、危険人物ではないと想定される。
さて、光が校長室に一人で呼ばれたお相手は、由紀が読んだ通り、「普通の人」だった。
ただ、普通の人と言っても、世間一般で言えば超大物の、大指揮者小沢先生だった。
光が校長室に入るなり、その上機嫌な顔が目に入ってきた。
小沢は光を見て、ニッコリ。
「ああ、お久しぶり、光君、元気だったかい?」
光も、小沢の顔を見て安心したようだ。
うれしそうに頭を下げる。
「はい、全く無事です、先生こそ、わざわざお越しいただいて」
光が小沢の前に座ると、単刀直入に話が始まる。
といっても、完全音楽限定というか、今回の学園のコンサートのプログラムの話になった。
小沢「ねえ、光君、コンサートで運命と第九を振るの?」
光「はい、両方とも、超名曲ですが、一緒にやっても問題ないかなあって」
小沢「ああ、そうだね、あり得るね、下手にコンチェルトをいれないほうが、オーケストラも練習がしやすいかなあ」
光「ベートーヴェンだけのプログラムにしたかったんです、他の作曲家のをいれると、何かコンセプトが濁るような感じがして」
小沢「うん、それは僕も感じたことがある。ただ営業上は、いろんな名曲アラカルトの方が、客が集まるから、興行会社はそれを強いるんだけれど」
光「僕らは高校生のオーケストラで、利益を追求しないので、その点は楽なんです」
小沢「晃子さんが嘆いていたよ、今回は呼ばれない、嫌われたのかなって」
光「全然、そういう意味じゃなくて、ベートーヴェンのヴァイオリンコンチェルトと合唱だと、今一つイメージがわきませんでした」
小沢「それは確かに、シンフォニーを続けたほうがいいかなあ、いずれにせよ、指揮をする光君の感覚だと思うけれど」
そこまでは、ほぼ、コンサートのプログラムの話だった。
突然、小沢が話題を変えた。
じっと光を見て、
「ところでさ、光君、少々頼みがあるんだ」
「光君に是非、受けて欲しい」
光は、少し身構えた。
恐る恐る・・・
「何でしょう・・・先生・・・」
光は、小沢の真面目な顔に、かなりためらっている。