出現、建御雷神
アメリカ大使館付近は、雷音と同時に、凄まじい豪雨となった。
「バケツをひっくり返した」などと言う表現では、全く足りない。
「周囲の池の水を全て集め、一気に落とした」とでも言えそうな、豪雨である。
校長室でモニターを見ていたキャサリンも、その様子に驚いている。
「本当ですか、ほとんど、この学園と距離が離れていないのに、全く人の姿も建物も見えない程の豪雨です!」
「それで、ここの学園の上空は青空です!」
校長は、腰を抜かしている。
「こんなことが・・・出来るのですか・・・」
「これが出来る神とは・・・」
ソフィーが、そのキャサリンと校長に笑いながら声をかけた。
「まあ、神の話は、光君から説明があると思います」
「その前に、あの例のプラカードも、火炎瓶も角材も水浸しで流れてしまったでしょうね」
「もちろん、人もずぶ濡れです、これでは騒動も続けられません」
同じようにモニターを見ていた光は、全く冷静。
「これが一番かなあと思っていたんです」
「下手にこっちが武器を持って乗り込んだり、戦闘をすると、被害も発生かねない」
「だから、あの神様にお願いをしたんです」
校長は、光の顔をじっと見た。
キャサリンも、校長と同じ考えの様子で、光の顔を見る。
その二人の顔に気付いたのか、光が口を開く。
「はい、彼は建御雷神」
「鹿島神宮の祭神にして、奈良春日大社の神、出雲にも関係していますが、戦闘の神でもあり、雷の神です」
ソフィーは、光を補足した。
「つまり、阿修羅としては、日本の八百万の神々に頼んだの」
「その中でも、今回は局地的な豪雨ができる雷神の建御雷神にお願いしんだよね、光君」
そのソフィーの言葉に光が頷くと同時に、モニターの画面に変化が起きた。
まず、豪雨は全て止んでいる。
アメリカ大使館の前には、少なくとも集まっていた「集団」は全て消えている。
ただ、数名のスーツ姿の人間がプラカードを身体に巻き付けられた状態で映し出されている。
校長が驚いた声をあげる。
「あ・・・あの人たちは、国会議員?例のプラカードがびしょ濡れで身体に巻き付いていて・・・」
「しかし、右手に火炎瓶、左手に角棒?」
ソフィーは、少し笑った。
「例のマスコミの人たち・・・会社名をつけたジャケットのまま、角棒持っている・・・へえ・・・そのまま逮捕なんだ・・・」
「結局、阿修羅の言う通りだった、実は出番がなかった」
さて、ソフィーの言う通り出番にまで至らなかった光は、キャサリンに目くばせ、立ち上がり
「ねえ、キャサリン、教室に戻ろう」
「少し闘おうと思ったけれど、建御雷神だけで済んでしまったし」
キャサリンも、光の意図は、すぐに理解した。
「うん!光君!ありがとう!」
そのまま、同じように立ち上がった。
そして、光の腕をさっと組み、校長とソフィーに一礼。
そのまま、まさに輝く薔薇のような笑顔で、一緒に校長室を出て行ってしまった。
ソフィーは、それで少し焦ったけれど、あまりにもキャサリンの動きが素早い。
「う・・・完全に負けた・・・さすがキャサリン」
少々落胆するソフィー、校長が声をかけた
「いや、それはともかく、八百万の御神霊ですか・・・それも建御雷神・・・」
「素晴らしいお働きを見せていただきました」
校長の顔が、輝いている。




