アメリカ大使館付近の混乱と、阿修羅の考え
ソフィーが光の顔を見た。
そして、かなり深刻な表情。
「ねえ、光君、どうする?」
つまり、具体的な対処について、相談をかける。
ただ、光は、それほど深刻な表情にはならない。
いつものハンナリ声で、冷静に分析をする。
「このまま、僕たちが出て行っても、ますます混乱を招くだけ」
「かといって、警察とか機動隊が対処を間違えれば、混乱は避け得ない」
「そうなると・・・」
光は、ここで少し考え込む。
キャサリンも不安な様子。
「もし、ここで騒動とか、それが広まって大使館前で騒乱などに発展すれば、アメリカ本国も黙っていません」
「世論、議会、政府、大統領に至るまで、まず日本への不信感、日本政府の統治能力への信頼の低下となると思うのです」
ソフィーは、まだ深刻な表情。
「アメリカ軍の基地がこれほど国内にあって、逆に言えば、日本など一瞬で再占領できる状態なの」
「だから現状であれば、下手に敵に回すことほど、国と国民にリスクを負わせることはないんだ」
「それを、あの連中、あの連中上がりなのかな、あの国会議員たち、それからマスコミ・・・」
「光君の言う通りさ、何もわかっていない」
少し考え込んでいた光が、ようやく口を開いた。
その目を輝かせながら、阿修羅の合掌のポーズを取る。
途端に、阿修羅が出現した。
「結論としては、彼に働いてもらうことにする」
「その意味において、戦闘行為はしない」
「まあ、実際、阿修羅自身が闘うほどの相手ではない」
キャサリンが、驚いて震えていると、阿修羅はすぐに姿を消してしまった。
同じように阿修羅の出現に驚いていた校長も、何ら声をかけることができないほどの瞬時だけの出現だった。
ただ、ソフィーだけは、面白そうな顔。
「へえ・・・彼って・・・あのお方なんだ」
「珍しい神を使うんだねえ」
どうやら阿修羅が言った「彼」を知っているようだ。
さて、校長室内での、そんな会話はともかく、アメリカ大使館付近には、異変が発生した。
まず、真っ青な空が広がっていたはずなのに、突然、黒雲が発生した。
ただ、アメリカ大使館周辺に集まっている集団には、ほとんど気がつく人はいない。
ますます、プラカードを高く掲げ
「アメリカ帝国主義打倒!」
「米軍は即時撤退せよ!」
「オスプレイ反対、全て解体せよ!」
大騒ぎを繰り返している。
また、大使館前の機動隊に、生卵を投げつけるもの、石を投げつけるものも出て来ている。
本来であれば、公務執行妨害以上の罪が課せられる事態となるけれど、それを妨害するかのように、動きを見せれば集団によってすぐに囲まれてしまう。
キャサリンは、ますます不安な様子。
校長も、光の表情をじっと見る。
校長も不安でならないようだ。
その光が、ようやく口を再び開いた。
「そろそろ準備できたようだね」
口調はハンナリ。
ただ、その言葉と同時に、雷音が聞こえ始めている。