ソフィーに続いてルシェールも春奈に抗議する
ソフィーの春奈への抗議は続いた。
「春奈さんね、人間が阿修羅に変化するとか、戻ってくるとか、すさまじい体力と気力を必要とするの」
「それはわかっているよね、春奈さんだって、かなり高位の巫女なんだから」
「光君ね、そのうえ、去年の夏から、敵がどんどん強くなっている」
「それにあわせて、使う体力、気力も、より大量のものが要求されるのは当たり前だし、闘いが終わって、ヘトヘトになるのは当たり前なの」
「巫女たちが増えたって言ってもね、戦闘系の巫女は去年の段階では私だけ、他の巫女は呪術系、実質的な戦闘は光君がメインだった」
ソフィーの抗議は続く。
「今は、それを心配した国際団体が、新しく戦闘系の巫女を送ってきた状態、とても日本の呪術系だけの巫女では、光君への負担が大きすぎるとね」
「全世界を守るために、命張って懸命に戦っている光君だよ」
「口に出してほとんど言わないけれど、キツイと思うよ」
「あれで、相当我慢強い子だし、必死に耐えているんだと思う」
「それで、心に壁を作って、余計なことは考えないようにしていた」
「それも、辛かったんだと思う、お母さんが亡くなってから、ずーっとね」
「それにお母さんが亡くなった原因も、光君にも一因があるしさ」
「ルシェールも感じているけれど、光君の心の傷はカサブタ程度、何かの機会ですぐに出血がはじまるし、そこでまた、ようやく開いてきた心を閉ざしてしまうかもしれない」
ソフィーは、一旦間を置いた。
「だから、阿修羅がいるから出来て当たり前とか、巫女さんたちに何から何でもお世話されているとか、18歳の男子なのにどうのこうのとか、言うべきじゃないよ、それは酷すぎるというもの」
「とにかく考えられないような体力、気力を使っての生活を送っているんだから」
春奈は、全くうなだれてしまった。
そして、腰が抜けてしまって、立ち上がれなくなった。
ソフィーと春奈が、そんな話をしていると、ルシェールが保健室に入って来た。
ルシェールは、一瞬にして、部屋の雰囲気を理解した。
というよりは、「巫女力」で、ソフィーと春奈の会話を読んでいたようだ。
ルシェールは、おもむろに話し出した。
「春奈さんは、ずっと光君の面倒を見て来てもらって、確かに功績はあると想うの」
「光君も春奈さんを、すごく信頼しているし、それで去年の夏の光君が助かったという面もある」
春奈は、まだ顔をあげられない。
ルシェールは話を続けた。
「でもね、私もそうだけど、みんな他の巫女が感じていることは、今の春奈さんの光君への言葉は、かなり厳しい」
「そして、光君は表情には出さないけれど、春奈さんの言葉で、ひどく傷ついていることは事実」
「私のお弁当も食べられず、指揮棒も振れないらしい」
「さっき私も見てきたけれど、おなか抑えて、うんうんって唸っているだけ」
「保健室はって聞いたら、絶対に行かないって・・・首を横に振った」
ルシェールはここで一呼吸。
「ソフィーの言う通り、何かとんでもない事件が発生した時に、光君が力を発揮できなくなる」
「そうなったら、どれほど世界が困るのか、計り知れない」
「痛みに泣く人が、子供が、どれほど発生するかわからない」
「今日の朝だって、光君が対応しなかったら、あの赤ちゃん、暴走トラックにひかれて死んでいたんだよ?」
「それを、春奈さんはできて当たり前なんて、言って・・・」
ルシェールの責めも、かなり厳しくなっている。