お叱りを受け、シュンとなる光
それでも、ソフィーがルシェールに尋ねた。
「光君にしろ、巫女たちにしろ、政府の警護対象なの」
「交通手段も教えて欲しい」
ルシェールは、にっこりと笑う。
「はい、大丈夫です、教会が責任を持ちまして、送迎します」
「悪霊など、絶対に寄りつけない程の祈祷車両です」
と、そこまでは良かった。
やはり、ソフィーも他の巫女たちの「すごく気に入らない表情」も気になったらしい。
少々、苦笑の後、
「ふ・・・仕方ないですね、巫女様たちも心配です」
「完全祈祷バスにて、教会までは来てもらいます」
途端に、ルシェール以外の巫女たちの表情が元に戻ったけれど、肝心の光の顔がパッとしない。
おまけに文句まで言い始めた。
「ねえ、ルシェールも、みんなもさ」
「どうして教会に行くぐらいで、完全祈祷車だことのバスって言うの?」
「すっごい面倒だって、そんなの」
「メトロで行けば十分、お金もかからないし、時間もそのほうが速い」
「車だと渋滞するとか、信号だとか、超面倒」
・・・・とにかくグズグズと言い始めてしまった。
しかし、これには、ソフィーをはじめとして、全ての巫女が呆れた。
巫女全員が、「このアホ!」と思っている雰囲気が充満している。
そしてまずソフィーの口調がメチャクチャにきつい。
「あ・の・さ!光君!」
「昨日だって、とんでもないことに巻き込まれたでしょ?」
「それも含めて、光君は不用意なことをし過ぎるって、本当は昨日の夜は春奈さんと、重々、大説教しようと思ったの」
「それでも、光君は、疲れすぎてて、華奈ちゃんの鏡の秘法と春麗の四川料理で、回復ギリギリだったから、遠慮したんだよ?」
「それわかっているの?」
光は「うっ・・・」とウロタエ顔。
春奈も、顔を真っ赤にして、ソフィーに続いた。
「ソフィーの言う通りだよ、光君」
「どれだけ心配しているのか、わかっているの?」
「光君の無事は、光君だけの無事じゃないんだよ」
「ここにいる巫女さんたちだけのものじゃなくてさ」
「ほんと、無防備、無神経のカタマリ!」
由香利も光を責めた。
「光君だって、わかっているでしょ?」
「混乱の蠅の神、ベルゼブブが相手なんだよ」
「どこで何をしてくるのかわからないの」
「メトロのお客さんにだって危害が発生する」
他の巫女たちも、光を責めたかったようだ。
しかし、それは難しかった。
何しろ、三人の年上巫女に責められて、光が意気消沈してしまった。
とにかく、下を向いてしまったのである。
それでも、ルシェールが、怒りを抑えた。
やさしく光に声をかけた。
「わかった?光君」
「みんな、すごく心配してのことなの」
「とにかく、ベルゼブブをやっつけるまでは、我慢してね」
そう言って、光の背中をトントンと叩き、なでている。
少しして、ようやく光が口を開いた。
「ごめんなさい、つい面倒になって」
「みんなの言う通りにする」
そんな光を見て、華奈は思った。
「光さん、ちょっと、疲れているかもしれない」
「いつもは、あんな変な文句、言わないもの」
華奈は、光の表情の暗さが、心配で仕方がない。