宗教学者美紀の説明と分析
阿修羅が、再び合掌のポーズを取ると、阿修羅の姿が消え、光に戻っている。
と、同時に天神アポロと天使長ミカエルも姿を消した。
光が華奈に声をかけた。
「華奈ちゃん、お母さん、来られるかな」
華奈も、珍しく素直。
「はい、わかりました」
と、さっそく母の美紀にメールを打っている。
光は、その次に、巫女全員に説明。
「こういう話は、宗教学者の美紀先生に説明してもらうのが一番」
巫女全員も、納得している。
華奈の母にして、宗教学者の美紀も、すぐに光の家に入って来た。
そして、まず、光に
「光君、ご苦労様でした」
と頭を下げ、
「何しろ、あの航空機を止めるにはあれしかない、しかし、あまりにも気力、精力を使う」
「華奈だと不安だったけれど、何とか持ち直してよかった」
光は、少し笑い、首を横に振る。
「そんな美紀叔母さん、華奈ちゃんに僕は助けられたんだから、本当に感謝しています、華奈ちゃんがいなかったら、どうなったのかわからないほどです」
光の言葉で、華奈は、その顔を真っ赤にしている。
さて、そんな前置きがあったけれど、美紀はさっそく説明を始めた。
「まず、ベルゼブブは、蠅の王と呼ばれ、多くの悪魔と魔物たちを支配する地獄の君主の一人」
「人間に悪魔を信仰させ、混乱させ、誘惑する、争いをそそのかし、嫉妬心を高めさせる」
「蠅の形を取ることが多く、ブンブンと人にたかり、なかなか離れない」
「今日、光君たちの学園に行った元官僚も、おそらく取りつかれた一人」
美紀は、そこまで説明をして、ソフィーとサラに顔を向ける。
そして、二人が頷いたのを確認してから、また説明を続ける。
「もともとは、カナンの地で信仰されていた神、そもそも蠅を殺す神だったはず」
「しかし、時代の変遷とともに、いつの間にか、悪魔である蠅の王に変化した」
「様々な伝承も残っている」
「古代ユダヤのソロモン王が魔法の指輪で、ベルゼブブを呼び出し捕縛、服従させた」
「捕らえられたベルゼブブは、ソロモン王に解放する約束と引き換えに、「天国の秘密」を教えたけれど、ソロモン王はベルゼブブの伝えた内容を信じず、身柄を解放しなかった」
「もっと有名なのは、イエスの話」
「イエスは悪魔祓いの奇蹟を行ったけれど、パリサイ人はそれを否定した」
「パリサイ人は、逆にイエスが悪魔ベルゼブブに、取り憑かれていると疑った」
「その疑いに対して、イエスは『なぜ、サタンがサタンを追い出すのか、国が内輪もめして争えば、その国は成り立たない、同じようにサタンが内輪もめしていては、立ちゆかず、滅びてしまう』と語った」
「その後は、十二世紀の聖フランチェスコがベルゼブブと戦った話」
「十六世紀にフランスで少女に取り憑いた話」
「十七世紀の修道女たちの悪魔憑きの話」
美紀の悪魔ベルゼブブについての説明は、長々と続いた。
光が、口を挟んだ。
「つまり、蠅がブンブンとまとわりつくと、どうしても不快感がある」
「気持ちも落ち着かない」
「だんだん、混乱してくるし、正常な神経を保てない」
美紀が光に頷き、また説明をする。
「とにかく繁殖力が強い蠅の王、それに対抗しなければならない」
「混乱に乗じて、何を仕掛けて来るのか」
「今回の航空機での蠅は、羽音そのものに、睡眠作用を催す何かを仕掛けたのかもしれない」
「いずれにせよ、かなり厄介な相手であることには変わりがない」
美紀の表情は、かなり厳しいものになっている。