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短編集

待合室にて

作者: 巫 夏希

「4番線に参ります列車は……」


 駅のホームに到着した僕は、行き先の電車がいつやってくるのかを確認した。電車は全席指定席だから、間違えないようにしないと。

 それにしても寒いな。冬は寒いから思わず凍えてしまいそうだ。待合室で温かいコーンスープでも飲みながら待つとしよう。そう思って自動販売機へと向かうが、そういう考えの人間は何も僕だけじゃないってことだろう。案の定温かい飲み物はすべて売り切れていた。

 仕方がないのでそのまま待合室に入る。中はヒーターがついていてとても暖かい。


「久し振りだね」


 僕はそれを聞いて、最初空耳かと思った。

 だけど、違った。そこに居たのは、十五年前初めて恋をした少女だった。


「久し振り。確か引っ越したきりだから十五年振りだよね」

「うん。そうだね。いやー、それにしても運命の再会ってやつだね。素晴らしいよ。ねえねえ、いろいろ話を聞かせてよ。私が乗る電車も、未だ来ないんだ」


 それにしても、こんなタイミングで会うなんて本当に運がいい。僕と彼女はそれから僅かな時間だったけれど、十五年間お互いに何があったのかを話し合っていた。

 けれど、時間は有限だ。あっという間に幕は引かれる。

 僕と彼女が乗る電車は、ちょうど同じ時間に来るようだった。切符を取り出して、もう一度座席を確認する。うん、やっぱりこの電車で間違いない。けれど、僕と彼女の行き先は、真逆。だからここで今度こそ今生のお別れ。神様がくれたプレゼントかもしれないって、思うしかない。いや、そうとしか思えない。

 だから、僕は言うんだ。


「ねえ」

「……どうしたの?」

「僕さ、君のことが」


 言う前に、彼女が僕に手を握り、そして口付けた。


「……え」

「じゃあね。電車、乗り遅れないようにね!」


 そして彼女は、ちょうど到着したその電車に乗り込んでいった。

 名残惜しかったが、僕も電車に乗らないと。そう思って、僕も電車に乗り込んだ。



 @

 それにしても、彼と本当に会えるなんて思わなかった。最後の機会に一つだけ願いを叶えてやろう、なんて言われたから思わず初恋の相手に会わせてくれ、なんて言ったら本当に叶っちゃうなんて。

 でも、同じ空間にいるってことは……つまりそういうことなんだよね、神様。

 なんというか、ずるいよ。そして、悲しいよ。そんな結末は、迎えたくなかった。

 だからせめて彼にだけでも幸せになって欲しくて……私は切符をすり替えた。

 私は天国行きの切符を、彼は地獄行きの切符を持っていた。そしてそれぞれの電車は天国と地獄への直通列車。

 何で彼が地獄行きの切符を持っていたのかは知らないし、知りたくもない。幼い頃の思い出を汚されたくないから。

 だから私は、そのままの彼に居て欲しくて、敢えて地獄行きの切符にすり替えた。

 笑顔で私達は、今生のお別れをするのだ。未練なんて、もう言っていられない。さようなら。生まれ変わっても、また会えるといいね。



 @

 そして、電車の扉は閉められた。

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