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銃口の先を自分に  作者: モスチキン
9/11

この紅茶を大佐殿に

護送船の上、がっしりとした筋肉で覆われた男が立つ。


「バードケージさん、飯時は十分過ぎているというのに、あの男まだ来ませんね」


「フハハハハッ‼今更怖じ気づいたか。それとも俺との約束など端から守る気など無かったか、いちいち癇に障る野郎だ」


「あの男、相当な馬鹿なんだろうな。もし来なかったらどうなるかなんてこの俺でも簡単に思い浮かぶぜ?」


男たちは不敵に笑う。自分たちこそ総ての者たちの頂点にたち、自分たちの思い通りにならない者など必要ない。自分たちが法であり、自分たちこそが全てだ。


「こちらの準備はもう既に整った。いつでも捻り潰されに来いよ、貧弱なビビり屋が‼」


尚も下品に笑う。

誰もこの男たちとは関わりを持ちたくないのだろうか、太陽がギラリと輝く晴天にも拘らず、甲板には誰もいない。

七人を除いて。

バードケージ、彼の配下五人、そして。




私は、朝食を終えると自室でくつろぐことにした。

こんな天気の良い日は日向ぼっこでもするのが至高なのだろうが、どうも聞くところによると、甲板の上ではうるさい男たちが数人たむろって何かしているとのことで、昨日のこともあるから、近づきたくない。

私は自室で一人籠りながら、椅子に腰掛け、家から持ってきた本を楽しむことにした。


どれほど読んだだろうか、私が物語にのめり込んでいるその時、部屋の外からノック音がした。

驚いて腰を浮かし、近くにあったペンを読みかけのページに挟む。


「誰?」


「アストラ大佐、わたくし、給仕の者でございます。紅茶をお淹れしましたので、是非お飲みください」


「ありがとうございます。少しお待ちください」


私は慌てて扉に近づく。

掛かっていた鍵を開け、ドアを引く。


「どうぞ、こちらです」


「ぁ... 」


スーツ姿の男がこちらにカップを手渡した。

男は軍隊所属の給仕らしく、非常に図体がいい。

男が扉の取っ手に手をかけた瞬間、びくりとしてしまった。

いつもなら何ということもなかったのだが、その類いの男を見ると少し警戒をしてしまう。


「あ、はい、すいません、ありがとうございます。あの、砂糖をいただけますか」


「砂糖?紅茶に入れるのか?生憎だが今は持っていない」


「そうですか」


私は男がポケットの中に手を突っ込んだ瞬間を逃さなかった。

勢いつけて戸を押した。

昨日来た給仕と明らかに態度が違う。

口調が少し乱雑なのはともかく、砂糖を持っていないなんて論外だ。

だが、給仕の男は自分の足をドアに挟んだ。


「アストラ大佐、急にどうなされました?」


「貴様、それで私を騙せると思ってか!」


「いったい何のことで?それよりも紅茶の感想を是非お聞かせください」


低い声で笑った。

男は足を抜こうとはしない。

それどころか戸に全身の体重をかける。

汗が頬を伝い、首もとまで流れるのを感じる。


「とぼけるのも大概にしろ!こそこそと、貴様、この私にいったい何のつもりだ!」


尚も男は体重をかける。

扉がミシミシと音をたてる。

もとより15歳の少女と、筋肉質な男である。

目に見えてわかる勝負の行末は、いとも簡単に訪れた。


「大佐殿、どうして私を拒否するんです?」


勢いよくドアが開く。

私は突き飛ばされ、しりをついた。

手に持っていた紅茶がカーペットにシミを作る。

男は私に向かって歩いてくる。

一歩、一歩と近づくにつれて、段々と昨日の記憶が甦る。

見覚えがある。

この男の顔、昨日ユウマの脇腹を蹴った男に似ている。

立ち上がり、男の顔をにらむ。

間違いない、あの男だ。

何が目的かはわからんが、昨日の出来事が引き金だということは確かだろう。

とにかく逃げようと、男を睨みながら一歩足を下げる。

だが、先ほど落としたカップに足をとられ、転げてしまった。

背中が痛い。

目頭が熱くなる。


「おやおや、折角の紅茶が台無しに。でも安心してください、まだありますから」


そう言って男が取り出したものは白い粒状の物体、睡眠導入剤...。

髪が汗で額にへばりつく。

拭っている余裕はない。


「い、今すぐ出ていけ!さも、さもないと、貴様を、ぐ、軍から追い出すぞ!」


「追い出すのですか、生きていたら、ね」


男の口元が汚く歪む。

笑っているつもりなのだろうか、それでも目は笑っていない。

視界が徐々に霞みはじめる。

私は手元にあったカップを男の額めがけて投げた。

乾いた音とともに、白い破片が飛び散る。

男の額からはわずかに血が出ていた。


「てめえ、やっちゃいけねえことって、あるんじゃないか?たとえば、こういうのとかなァ!」


男の拳が私の左頬を抉った。

パンという音がして、私は一メートルほど後方に飛ばされた。

本棚の角に後頭部を打った。

私は漏れるうなり声を最大限に抑え、できるだけ強がって見せた。

だが、顔は腫れ、目は充血し、涙で潤んでいる。

どうみても、怯えているようにしか見えない。

それでも私は立ち上がった。


「あんた、さすがだよ、さすが天才だ。俺を楽しませてくれる!もっと楽しもうぜぃ!」


男は私の肩を掴むと、もう一方の手で頭を地に押し付けた。


「ハハハハハッ‼何が天才だ!何が大佐だ!」


その時、外から話し声が聞こえた。ハッと我に返り、男は押し黙る。もちろん、私の口に手を当て、なにも声を出させない。


「おっと、俺はどうやら目的を忘れていた。あんたを眠らせ、バードケージさんの元に連れていく、これだけのはずだった」


そういうと男は先ほどの錠剤を一つ二つ手に取ると、私の口を無理にこじ開け、それを詰める。

指を噛んで抵抗しようも思わなかった。

もはや、何をしようとも思わなかった。徐々に頭が白くなっていく。

まぶたが重くなっていく。


私が次に目覚めたのは、甲板の上であった。

甲板には誰もいない。

七人を除いて。

バードケージ、彼の配下五人、そして私。

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