この巨漢の怒りが俺に
ようやくユウマが部屋に帰ってきた。
どうやら奴は今日から食堂でアルバイトを始めたらしい。
なんでもお金を一銭も持たないでこの船に乗ってきたため、メシ代に困っているそうだ。
アルバイトというのも仕事量から相当シンドイにも拘らず、時給わずか78zとあまりに薄給でショボいものだが、本人いわく食扶持さえ保てたらそれでいいようだ。
まかないと称してタダ飯かっぱらってきたからに、相当気分良く帰ってくると思ったら、どうやらそうじゃあ無いらしい。
「おい、ユウマ、どうした、顔が青いぞ」
「いやいや、何でもねえ」
「何でもないわけないだろ!食堂で、昨日のより豪華なもん食べれて普通なら満足げにしてるだろ」
「そりゃおにぎりは昨日の虫よりも豪華なもんだぜ?それにこっちの話だ。あんたには関係ないよ」
「なら尚更気になるぜ、ダチの心配事は俺の心配事。どうした、何かあったのか?話してみろよ」
「いや、まあ、昨日アストラをいじめてた男が、俺に、朝食後に甲板で会おう、って。これ、ヤバイ予感しかしねえし、行きたくねえなあ」
「何?マジ!?あの連中に目をつけられるとはなあ」
「なんだ、あいつらのこと何か知ってるのか?」
「一応同じ士官学校に通っていた同期だ。多分アストラ大佐も同じだったはずだぜ?」
「ほう、あいつら、そこでもトラブルメーカーだったのか。本当、嫌な連中に目をつけられたもんだ」
「呼ばれたんだろ?行かなかったら何されるかわからねえぜ?何しろ同じ船に乗っているんだ、寝ているときに何かされたり...?」
「うっ...やめろ、恐い。でも行ってどうしろと... 。行こうが行かまいが、死にやしなくてもそれ相当なことが待ってんだぜ?行きたくねえよ」
「いや、むしろ行くんだ。お前、いっそ倒しちまえよ」
「できるかァ!一発ノックアウトでもおかしくねえぞ!俺とアイツの体格差半端ねえぞ?ゴリラに人間が勝てるかって話だ。」
「ただ奴らに迷惑被ってる奴はたくさんいる。もしも、万が一勝てたらお前伝説だぞ!」
「伝説になってもしょうがないけどな。よし、決めた!どうせなら、しっかり対峙して正々堂々と死んでやる!」
「お、なんかかっこいいじゃん!そのいきだぜ!」
「だが何もしないのは癪だ。なんか罠でも張って、俺を襲ったことを後悔させよう」
「うわ、だせえ」
「これも立派な戦法だ」
ユウマは声を荒らげると、勢い良く扉を押し開け、部屋から出ていった。
ユウマと、あの男、バードケージとの闘いは、どう考えても分が悪い。
ユウマは何やら姑息な手を使ってバードケージと対峙するつもりらしいが、バードケージもまた、卑怯な手で相手を貶めるプロだ。
同じ士官学校にいたときから、あの野郎は何かとトラブルを起こしてきた。
昨日のアストラ大佐との件もそうだが、あいつの得意とする戦法は、相手にとってマズイ状況に持ち込んだあと、一切攻撃することを許さないまま一方的に殴り、蹴り、プライドを痛め付ける。
この、プライドを痛め付けることこそバードケージの愉しみであり、簡単にプライドを捨てるようなユウマに愉悦感より怒りを覚えたのだろう。
ならばユウマ一人で戦わせる訳にはいかない。
俺も戦おう。
ユウマがどんな手を使うのかは分からないが、俺に手伝えることはなんだろうか。
「ねえ、そこの一本グソのお兄ちゃん」
「あぁ!?それは俺のことか!?どういう意味だオラァ!」
振り向くとそこには長めの明るい紫色の髪を前髪だけピンで留めた女の子が立っていた。
「ごめんなさいね、あなたの両サイドが金髪で真ん中を茶色に染めた髪型が、枯れた芝生の上に置かれたウンコみたいでね、フフッ」
何がフフッだよ、何も面白くねえんだよ!
何かわいい顔してそんな下品極まりないこと平気で言えるの!?
「どんな目をしてるんだてめえは、目が腐ってるのか?その黄色い目は腐ってる色なのか?」
「うわっ!初対面の少女になんて酷い言い様!あんた、紳士とはあまりにもかけ離れすぎてるわ」
「いや待て、ほんの数十秒前にてめえ飛んでもないこと言ったの忘れたのか?てめえこそ淑女からえらく遠い存在だぞ!」
「もはやそんなこと、どーっでもいい!あんた、さっきの男の子と知り合い?」
「ああ、ユウマのことか?昨日知り合ったばかりだ。なんだ?あの男が気になるか?あいつ見た目こそ普通より上だけど、性格があまりに残念だぜ?なんせ初対面の女の子に近づくなって言われるほどだ」
「ちっがうわ!誰もあんな男狙ってないわよ!てか、性格ならあんたも大概だと思うんだけどね。そんなことじゃなくて、ユウマ?ってやつ、この船でこっそりスリ働いてるってマジ?」
「な、それはどういう意味だ?確かにあいつはお金に困っていたようだが?」
「朝の五時頃にごそごそしているのを見たって人がいるわ。それに彼、食堂のアルバイトを始めた理由、店の売り上げをこっそり横領するためだって」
「そんなはずは...ていうか、そんな証拠どこにあるんだよ!」
「しかも、あれで前科持ちらしいよ。この船の誰も軍人学校で見たことないんだって。戦地に赴くのは軍人学校で鍛えられた者か、前科もちのやつしか認められてないでしょ」
「どうしてそんなことを知っている!」
「わたしも噂に聞いただけよ。まあ、友人にそんなこと普通は言わないか。やっぱり、あの男、つくづく怪しいねえ」
なんだこの女、どうしてこんなにユウマのことを?てか、こいつの言っていること、本当なのか?俺はどうしたらいいんだ?




