この食堂での職を私に
料理長を名乗るその男に、一枚の書類を手渡した。
「食堂アルバイトを希望するだ?」
「戦地に着くまでの3日間、必死で取り組むんでお願いします」
「いやいや、お前の好きなようにしたら良いんだがな、だが時給78zで働こうなんて物好きはそうそういねえぞ?たった3日間ここで働くよりも、どこかの店番してた方が断然ましだぜ?」
やっぱり時給78zというのは酷く低給なようだ。1z=6円説が有力になってきた。
「まあ、いろいろ事情があって... 。」
「まあ事情なんてなんだっていい。勿論、ウチとしては人手が増えるのは大歓迎だ。採用。よろしくな」
「ほんとですか!よろしくお願いします」
「それじゃ、明日五時半から早速来てくれ。遅刻は-20zだ。給料から天引く」
「マジですかい」
濃い顔つきの料理長が歯を出して笑っている。
飯を済ませ、面接を終えた俺は、浴場へ向かった。
俺のイメージする軍隊とは違い、風呂の時間は自由で、長さも自由。
故に、多くの男たちが風呂に敷き詰められている。
今お湯の温度を100℃にしたら、それは濃厚な出汁が取れるのだろう。
俺はシャワーの前に座り、シャンプーとおぼしき液体を手に取り、頭に塗り込む。
「兄ちゃん何してんだい!それ、歯を磨くためのモノだぞ!?」
なんだそれ、知らん!道理で泡立たないと思ったら。
っつーかこのボトルの文字が読めないのだ。
言葉は聞き取れるのに、なんだかなあ。
「いや、隣の国の文字だから、シャンプーはこの塊だぜ」
「そうか、サンキュー」
「良いってことよ!てか兄ちゃん、さっき食堂で土下座させられてた奴じゃね?」
うわ、マジか、なんか、嫌だなあ。今思い返すと相当恥ずかしいな、俺。
「いやいや、何顔赤らめてんだよ!みんな馬鹿にしたように笑ってたけど、俺はかっこいいと思うぜ、気にするな」
「あ、おう。そうか」
「一人のか弱い少女を守るために体を張って土下座、くぅ~かっけえ!兄ちゃんみたいなの憧れるぜ。そいや、名前なんていうんだ?」
「俺の名はユウマだが、あいつ陸軍大佐なんだろ?か弱いどころかめっちゃ強いじゃん」
「まあまあ、戦闘で強くても心はまだまだか弱いガキだからな。あれで、15歳だったかな」
「あれ、マジか、高校卒業ってのは嘘だったのか?」
「いやいや、飛び級で成り上がりだ。たった三年で小中の九年分の勉強をしたって話で有名だったの、知らねえのか!?」
なんだ、本当にヤバイやつなのか、陸軍大佐ってのもガチで、その実力もヤバイ、え、あの女超大物じゃん。発言はめっちゃ小物臭するのに。
「意外だが、確かに辻褄が合うわなあ。そういやあんた、名前、何て言うんだ?」
「俺か?俺はタールだ、俺まだここで友達いないからよ、何かとよろしくな、ユウマ。あ、なんなら、アストラ大佐を一度紹介してくれよ!」
こいつが俺に話しかけてきた目的、あの女なんじゃね?
頭のこめかみからこめかみの間の髪を茶色、両サイドを黄色に染めた珍しい髪、向こうでいう西欧人風に鼻の高い男、タール、覚えたぜ。
一通り体を洗い終わると、俺は湯船に向かった。
だがすでに満員でキツキツ、誰一人として入る隙間がなかった。
「なに怖じ気づいてんだよ、ユウマ!こういうときはな、足が片方でも入っちまえば、後はもうこっちのもんだぜ?」
「この中に無理矢理入ろうっていうのかよ!どんな拷問だ。もはや湯で汗を流そうなんて概念皆無だな」
タールに従い、入ってみたが、常にマッチョな男たちと肌が擦れあう。
肉体から肉体へ体温が移り、全身から汗が吹き出る。
この汗が潤滑剤のような働きをするのか、常にヌメヌメと誰かと接している。
お湯など、あってないもんだ、お湯がなくても汗が流れる。
これをたった一言で表そうといえもんなら『気持ち悪い』『おぞましい』に尽きる。
「おい、タール、これが日常なのか?」
「海の上だと水は貴重な資源なんだ。こうして男と密着しながら体温をあげたり、多くの男を投入した方が少ない水、小さい火力でお風呂を楽しめるというわけだ。もちろん、時間をずらして入っても良いんだが、湯自体が少なく、さらに冷えきった状態だ、ちっとも意味がねえ」
あと数回これに耐えなきゃいけないと思うと、思わずため息が漏れた。




