この国のお金を俺に
私は自室の窓を通して外を眺めていた。
太陽が海に沈み始め、夕日に海が焼かれて煌々と輝いている。
陽の暮れる前にどこかへ羽を休めたいのか、夕空で黒い影となったカモメの群れが急いで海をわたっている。
その群れから一羽遅れてカモメが飛んでいる。
私がカモメならその一羽のカモメだろうか?
いや、きっと私なら群れの前でただ一羽で飛んでいるのだろう。
いつもなら感傷に浸る夕焼け時に、私らしくない『友達』などというワードが頭のなかで浮かぶのは、きっとあの男のせいだろう。
海を眺めていたときも男の言動に惑わされていたから、今日一日をあの男に無駄にさせられた気分だ。
せっかくの海が台無しに思える。
もう、あの男のことは忘れよう。
名前さえろくに覚えていないのだ、今更なんだってあの男に協力してやらなければならない。
ユウマに自分の国に帰る方法を探すよう頼まれたとき、私は酷く動揺してしまった。
私は生きてきてこの方、他人に頼られることはなかった。
六歳の頃から軍隊に興味をもち始め、ひたすら軍隊について学び、その探求心はとどまるところを知らず、小学校、中学校の全過程をたった三年で頭に詰め込んだ。
飛び級制度のお陰だったのだが、その飛び級制度のために私は妬まれる対象になってしまう。
だから、いつどこであっても私は常に除け者扱い、頼られるどころか無視を決め込まれることは多々あった。
だが、このことは学校という社会のなかで収まっていたものでなく、私のせいで弟もやっかみの対象になり、その事で親からも疎ましく思われてしまった。
きっと私が戦争に出るって聞いてさぞ喜んだだろう、召集がかかったことを知らせても、どう言った表情をしたものか困り果てていたのがその証拠だ。
それからというものの、私は友達という存在を作らなかった。
いや、正確には作れなかったのだが、考えてみるとすべて自分で解決してしまう自分にとって、友達に価値を見いだせなかった。
そんな私に、ユウマは協力してほしいなどとのたまった。
しかもその男は、私を友達だと言い張る。
本当に嫌なやつだ。
気がつけば陽はとっくに沈み、辺りを夜が包んでいた。先程のカモメは無事に岸へとたどり着けたのだろうか。
時計の針が7を指しているのを確認すると、私は財布を握りしめ、護送船の食堂に向かう。
ディナータイムだ。
食堂には大勢の兵士が集まっていた。
カレーやら、唐揚げ定食やら、蛙の水煮やらを各々がそれぞれ食べている。
トレイとスプーンを受け取って、水の入ったカップを手に取ったとき、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「アストラさあん!」
今日一日に何度も聞いた、鬱陶しい、耳障りな声である。
一瞬無視を決め込んでやろうと思ったが、少し辛そうに呼ぶので、振り返ってやると、いきなり膝をついた。
「どうか、お金を貸してください!」
「どうして貴様なんかに貸してやらなきゃならない」
「俺、一銭たりともお金を持ってません!」
こいつの言うことが確かなら、もともと違う世界にいたため、この世界の通過を持っていないのだろう、顔を歪めて今にも泣きそうな表情だ。
「なにも私から借りんでも、他の誰かから借りればいいだろう。」
どうしてこの男は私を頼ろうとするのか。
「だってそんな、急に知らないところに連れてかれて、友達なんか出来っこねえよ!今はあなたが頼りの綱なんです!」
「貴様が丁寧語を使うのは気持ちが悪い。それに、私は友達なんかじゃないと何回言えばわかる」
「俺の丁寧語を批判するほどの仲じゃないですか!それに、まだ2回目ですよ!」
「仕方がない、貸してやるから、その丁寧語やめろ。寒イボがたつ。いくらいるんだ?」
「ありがとう!一番安いのでいいよ」
「コオロギのかき揚げか?正直美味しくなさそうだが。ほら、35zだ」
「このご恩、マジで忘れねえ!」
頼む、お金を返したら忘れてくれ、そして私のもとから離れてくれ。




