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第九話「三人の冒険者」

 宿のロビーでシャルロッテと合流すると、今日は白いローブを身に着けていた。白い形の整った耳と尻尾に良く似合っている。シャルロッテは俺達の姿を見るや否や、楽しそうに尻尾を揺らした。


 ローラはすっかりシャルロッテの事が気に入ったのか、朝からシャルロッテを抱きしめると、幸せそうに頬ずりをした。シャルロッテはローラの素直な愛情表現に困惑しながらも、柔和な笑みを浮かべ、ローラの頭を撫でている。


「おはよう、シャルロッテ」

「おはよう、ローラ、ギルベルト。今日の予定は決めたの?」

「まずはローラの服を買いに行こうと思う。それから廃村でスライムとスケルトンを狩ろう。今日狩りをすれば、二人の杖の代金程度は稼げると思うんだ」

「ローラの服を? 確かに、レザーメイルでは随分窮屈そうね」

「うん。胸の部分が苦しいの。だけど服を脱いだらギルベルトが怒るから服を着ているの。シャルロッテ、どうしても服を着なきゃだめなの?」

「ええ。人間は服を着るものよ。ローラは人間になったのだから、ギルベルトの言う事は良く聞くのよ。分かった?」

「うん! ローラ、ギルベルトが大好きだから! ギルベルトの言う事なら何でも聞く!」


 シャルロッテは何か誤解しているのか、恥ずかしそうにモフモフした耳を垂らし、小さな手で顔を覆って俯いた。ローラの好きという感情は人間の恋愛感情ではない。堅焼きパンが好き、乾燥肉が好きという単純なものに近い感情だろう。


『まぁ、堅焼きパンよりは好かれてると思うけどね』

「ガチャは俺の考えが理解出来るんだね」

『勿論。僕とギルベルトは一心同体だからね』


 それから俺達は宿を出て、朝の町をゆっくりと歩いた。狩りに出かける冒険者達が忙しそうに支度をしており、町には商人達の馬車がゆっくりと走っている。魔法都市ヘルゲンにはやはり魔術師が多いのか、シャルロッテの様にローブに身を包む人が市民が多い。


 商業区を歩き、女性向けの服を取り扱う店を探す事にした。暫く歩くと一軒の背の低い木造の店を見つけたので、俺達は早速店内に入る事にした。恰幅の良い三十代ほどの女店主が俺達を歓迎してくれた。


「いらっしゃい。今日はどんな服を探しているんだい?」

「この子の普段着を探しています。予算は三百ゴールドなんですが……」

「普段着で良いんだね。今着ている服は随分窮屈そうだけど、その服も下取りしようか?」

「よろしいのですか?」

「勿論良いとも。なかなか上等な革を使って作られているね。これなら四百ゴールドで買い取るよ」

「四百ゴールドですか? それではお願いします」

「お嬢さん、それじゃ私と服を選ぼうか」


 ローラは満面の笑みを浮かべ、店主の手を握って店内をゆっくりと歩き始めた。レザーメールが四百ゴールドにもなるとは、想像以上の収穫だ。


 それから店主はローラのために下着や普段着を選ぶと、ローラが下着を試着したままの姿で俺の前に現れた。ピンク色の可愛らしい下着で、彼女の豊かな胸の谷間に視線が行った。何だか恥ずかしくなって俯くと、シャルロッテが慌ててローラを試着室に戻した。


『おやおや、ギルベルト。随分心臓が高なっているけど、やっぱりローラの体に興奮しちゃったのかな?』

「全く、うるさいガチャだな! 興奮して当たり前じゃないか!」

「もう、ギルベルトったらローラばかり見るんだから……」


 シャルロッテが寂しそうに猫耳を垂らして俺を見上げると、買い物を終えたローラが戻って来た。手には服が詰まった袋を持っていたので、俺は彼女の服をマジックバッグに仕舞った。普段着と下着をいくつか購入しただけで、七百ゴールド全て使い果たして仕舞ったらしい。


 ローラは金色の刺繍が入ったローブを身に着けており、彼女の美しい金色の髪と良く似合っている。


「ギルベルト! ローラも猫耳にしたい! 猫耳出して!」

「分かったよ」


 俺はマジックバッグから白い猫耳を取り出してローラの頭に被せた。ローラはシャルロッテとお揃いになれたと喜び、店主はいつでも来るんだよと声を掛けてくれた。


 お金をすっかり使い果たして仕舞ったからには、今日は昨日よりも更に多くのモンスターを狩らなければならない。まずは冒険者ギルドに赴き、今日のクエスト開始を伝える事にしよう。今日も俺達はスライム討伐のクエストを受けるつもりだ。


 念願の冒険者になれたにも拘らず、スライムの様な低級なモンスターを狩って生計を立てている事が何とも恥ずかしいが、実力以上のモンスターとの戦闘は、装備すら整っていない現時点では危険すぎる。


 俺達は時間を掛けて装備を集め、ガチャを強化しながら、ゆっくりと冒険者として生きてゆく事にしている。時間なら十分にあるのだから、弱いモンスターを狩って魔石を集め、ガチャでアイテムを集めながらヘルゲンで暮せば良いのだ。レザーメイルを入手出来れば、安宿を一泊利用出来る事が出来る。


 宿の料金が二部屋で四百ゴールドだから、レザーメイル一つ入手出来れば一日の宿代になるという訳だ。更にモンスターを集めて人間化し、仲間を増やしながらモンスター討伐を生業とした冒険者になる。当面の目標は仲間の装備を揃える事、それから新たなモンスター娘を仲間に加える事だ。


 商業区を歩いて冒険者区に入り、冒険者ギルド・ユグドラシルに入った。朝のギルドはクエストを受ける冒険者の姿も多く、ギルド内で朝食を食べている者も多い。ローラが所持金全てを使ってしまったので、暫くは食事を我慢しなければならないだろう。


 簡単にお金を稼げる手段があれば良いのだが、スライム狩りでは一日の生活費を作る事も難しい。日銭を稼いで暮らすのも、いかにも冒険者といった感じで面白いが、もう少し金銭的に余裕があれば、精神的な余裕が生まれてくるのだが……。


 昨日出会ったフロイデンベルグ公爵家のヴェロニカお嬢様なる人物の屋敷を尋ねてみようか。確か『可愛い物には目がない』と言っていたからな。魔石ガチャでは冒険者生活に直接必要の無い、ぬいぐるみや着ぐるみ、猫耳の様な物を作り出す事が出来るのだから、ヴェロニカお嬢様が気に入りそうな物を集めて、彼女の屋敷を訪ねるのも良いだろう。


「ギルベルト。ローラお腹減ったよ……」

「我慢しよう。俺達は一ゴールドだって持ってないんだからね」

「二人共、そんな状態では満足に狩りを出来ないでしょう? 私が朝食をご馳走するわ」

「本当? 白猫ちゃん大好き!」

「もう……! 私は白猫じゃないったら!」

「ありがとう、シャルロッテ」


 こうして俺とローラはシャルロッテに朝食をご馳走して貰う事になった。トマトソースで味付けされた山盛りのスパゲッティが五十ゴールドだ。ローラが手づかみでスパゲッティを食べ始めたので、俺は慌てて制止し、彼女にフォークの使い方を教えた。


 食事を終えるとローラの口の周りはトマトソースが付いており、ローラが新調したばかりの服で口を拭おうとしたので、俺はタオルでローラの顔を綺麗に拭いた。そんな様子を冒険者達は小馬鹿にする様に笑っている。


 ローラの見た目は十三歳程だが、行動があまりにも幼いので、冒険者の中にはローラを見てあざ笑う者も居る。ローラはゴールデンスライムとして生きていたのだから、人間の常識も知らなければ、精神年齢もまだまだ幼い。試しに彼女の生まれを聞いてみると、歳を数える習慣はないから分からないと言った。


 子供の様なローラの行動に、シャルロッテは恥ずかしそう俯いている。シャルロッテの気持ちは理解出来るが、ローラはまだ人間としての生き方を模索している段階なのだから、人間の常識を知らないローラの行動を恥ずかしがる必要はない。


 露骨にローラを馬鹿にする冒険者も居るが、俺は他人の反応などどうでも良いのだ。まだ見ぬモンスターとの戦い、新たなマジックアイテムや、これから仲間になるモンスター娘達の事を考えているだけで幸せなのだからな。


 食事を終えた俺達は今日もスライム討伐のクエストを受ける事にした……。

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