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第五十話「宝物庫での宴」

 今日は何と運が良い日なのだろうか。ダンジョンの最下層に辿り着く事ができ、アラクネを召喚獣にした。それからレジェンドカプセルを当てる事も出来た。


 急いでカプセルを開けると、中からは純銀製だろうか、美しい女性の像が出てきた。レジェンドカプセルの中身にしてはかなり地味だが、まるでローラの様な澄んだ聖属性の魔力を感じる。きっと強い力を持つマジックアイテムなのだろう。


「それは守護神像といって、像に供物を捧げるとギルベルトを助けるフェニックスが現れるマジックアイテムだよ。フェニックスは回復魔法しか使用出来ないから、戦闘には参加出来ないけど、毎日供物を捧げ続ければ、命の危険が迫った時にはフェニックスが駆け付けてくれるんだ」


 ガチャはマジックバックから聖者の袋を取り出し、聖者グレゴリウス様からパンを頂くと、守護神像の前にパンを置いた。瞬間、まるでパンは蒸発する様に姿を消した。食べ物を像の前に置くだけで良いのか。


「こんな感じで毎日供物を捧げるんだよ。供物を忘れるとフェニックスは現れないからね」

「フェニックスって聖属性で回復魔法に特化した聖獣だよね……。俺のために聖獣が駆け付けてきてくれるのかい?」

「そうだよ。ギルベルトみたいな駆け出しの冒険者を守るために、命の危険が迫った時にのみ空から姿を現してくれる。それから守護神像はギルベルトの普段の行いも監視しているから、他人を傷つけたりするとフェニックスは決して現れないからね」

「幻獣クラスのモンスターをも上回る聖獣のフェニックスが俺に力を貸してくれるのか……」

「ああ。本当に光栄な事なんだからね。ギルベルト程度の駆け出しには勿体無いアイテムだよ」

「随分言いたい放題なんだな……」

「さぁ次のガチャを回そうか!」


 俺はガチャに促されて、正体の分からない魔石を投入した。ガチャの体にはレベル4の中級鍛冶師シリーズと表示されている。魔石はアラクネやケンタウロスロードと同等の力を持つモンスターの物だったのか。


 小さな銀のカプセルが地面に落ちると、俺とナイトは再び興奮して手を握りあった。まさかレアカプセルを当てる事が出来るとは。カプセルを開けると中には金の指環が入っていた。一見何の変哲もない指環に見えるが、レアカプセルに入っていたのだから、何か特殊な効果を持つ指環なのだろう。


「ギルベルトはガーディアンの召喚って魔法を知っているかな?」

「ああ。確か魔力の体をした守護者、ガーディアンを召喚する魔法だよね」

「その指環は守護者の指環と言って、頭の中で理想のガーディアンを想像して魔力を込めると、一瞬でガーディアンを作り上げる事が出来るんだ。生まれてくるガーディアンはギルベルト自身が持つ属性、火属性か雷属性の体をしている。これは想像の段階で選択出来るから、好きな方を選んでガーディアンを作ると良いよ」

「ガーディアンを作る指環? ガーディアンの召喚って俺の母でもつい最近覚えたばかりの高等魔法なのに……」


 自分で想像した通りの体をしたガーディアンを作れるのか。随分便利な指環が存在したものだな。やはり魔石ガチャとは反則的な効果を持つマジックアイテムを無限に入手出来る最高の相棒だ。


「さて、僕も久しぶりに葡萄酒を頂こうか。宝物庫って初めて見るけど、人間はこういう場所を見るとワクワクするんだよね」

「勿論。宝に囲まれているんだから当たり前だろう?」

「そうかい。僕の体の中の方が無限の宝が詰まっているというのに。こんな動きもしない鉄の箱に興奮しちゃって。全くギルベルトは馬鹿なんだから」

「確かにガチャの方が無限の可能性を秘めていると思うよ。これからも頼りにしているからね」

「大いに頼ってくれよ。僕は君を守る魔石ガチャなんだからね」


 ガチャは自慢げに胸を張りながら聖者のゴブレットから葡萄酒を飲むと、古ぼけた宝箱の上に腰を降ろした。それから聖者の袋からパンを取り出し、幸せそうにパンを食べ始めた。


 酔いが覚めるまでこの場で暫く休憩しよう。今日はダンジョンを攻略した記念すべき日だ。毎日死に物狂いで鍛えてきたんだ。暫く休むのも良いだろう。ヘルゲンに来てから今日まで、あまりにも忙しく生きすぎたからな……。


 それから俺はナイトとガチャと共に葡萄酒を飲み、スノウウルフの肉を飽きるまで食べながら、ガーディアンについて想像を始めた。やはり仲間にするなら盾役が良いだろうか。今の俺達のパーティーは防御力が低い。エリカや俺は攻撃に特化しているから防御は然程得意ではないし、バシリウス様が居れば防御力は格段に上がるが、彼に頼り切るのも情けないはなしだ。


 ナイトは俺とエリカ同様に攻撃に特化しているようだから、やはり盾役が居ればパーティーの防御力を大幅に強化出来るだろう。理想の盾役を考え始めると、俺の脳裏にはプレートメイルに身を包んだ父の姿が思い浮かんだ。筋骨隆々で巨大な見た目とは裏腹に、機敏に動き、どんな攻撃も巨大なタワーシールドで防ぐ。


 村にモンスターが襲撃した時は、まず父がモンスターの攻撃を受け、母が遠距離から攻撃魔法で援護する。それから若い冒険者達が父を援護しながら敵を討つ。これが俺の生まれ故郷、ベーレントの防衛方法だ。


 俺はタワーシールドとソングソードを構えた長身の剣士を脳内ではっきりと想像しながら、指環に魔力を込めた。属性は火属性で良いだろう。暫く精神を集中させると、目の前の空間には父によく似た剣士が姿を現した。


 火属性の魔力から出来ており、手にはロングソードとタワーシールドを持っている。魔力から武器を作り出す事も出来るのか。魔力から作られたシールドでは物理攻撃を防ぐ事は出来ないだろうが、魔法攻撃には耐性があるかもしれない。同属性の攻撃を受ければ打ち消す事も出来るだろう。もちろん、相手の炎がガーディアンの炎よりも弱い場合に限るが。


「立派なガーディアンだね、モデルは自分の父親という訳かい」

「そうだよ。魔力の体をしたガーディアンが居れば、パーティーの戦力が大幅に上がるだろうね。魔力が尽きるまでは死ぬ事もないんだから」

「ある意味ファントムナイトが鎧を脱いだ状態に近いのかもしれないね。物理攻撃は無効だけど、魔法攻撃は喰らう」


 ガーディアンは深々と頭を下げると、用が無いと悟ったのか、指環の中に消えていった。一度ガーディアンを作り上げたら、基本的には形状を留めたまま指環の中に封印する事が出来るのだとか。二回目からの召喚は予め作り上げたガーディアンを呼び出すだけで良いから、想像の過程を省略出来るという訳だ。


「二人共、暫く休んだら地上を目指して移動を開始しよう」

「久しぶりに仲間に会えるんですね。僕の姿を見たらどう思うでしょうか」

「まぁ、シャルロッテなら『ギルベルト。また女を増やしたの?』と言うだろうね」

「ガチャは他人の心が良く分かるんだな」

「僕じゃなくても分かるさ。シャルロッテはギルベルトに惚れているんだから」

「まさか、シャルロッテが俺に? そんな訳はないと思うけど」

「まぁ、獣人とパーティーを組む冒険者も珍しいからね。みんなギルベルトみたいに他種族と気軽にパーティーを組める人間ばかりではないんだよ。以前シャルロッテが言っていただろう? やっと出来た仲間だって」

「獣人も迫害されているという事かい?」

「歴史上では獣人が奴隷の身分だった事もあった。今も獣人を人間以下だと勘違いしている者も居るんだ。ヴェロニカやギルベルトが特別なのかもしれないね」

「俺はシャルロッテはモフモフしてて可愛いと思うんだけど」

「まぁギルベルトは女好きだからな。可愛かったら何でも良いんだよね」

「ちょっと! お兄ちゃんが女好きってどういう事ですか!」


 ナイトはガチャの体を激しく揺らすと、ガチャは楽しそうに笑いながら葡萄酒を一気に飲み干した。ローラもかなりの酒豪だが、ガチャも相当お酒が強いみたいだ。


 それから俺達はダンジョンから出た後の予定を立て、宝物庫内に毛布を敷いて三人で横にあった。ナイトは小さなガチャを抱いて眠りに就いたので、俺は彼女と背中を合わせて目を瞑った。


 ダンジョンの挑戦にアラクネとの戦闘。宝物庫での細やかな宴や、大好きな仲間とのひととき。やはり冒険者になって正解だった。俺は自分の剣で人生を切り開いてみせるんだ。俺の事を『役立たずのギルベルト』と言った連中を見返してやる。


 ローラやエリカの事を考えながら目を瞑っていると、俺はいつの間にか眠りに落ちていた……。

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