第五話「マジックアイテム」
虹色のカプセルが地面に落ちると、ローラはカプセルを拾い上げ、可愛らしい笑みを浮かべて俺に差し出した。俺は虹色に輝く美しいカプセルを開けると、中からは小さな金属製のアイテムが出てきた。形状は長方形の箱。箱の上部には穴が開いている。一体どんな効果を持つマジックアイテムなのだろうか。
『素晴らしい! レジェンドカプセルを当ててしまうとは! それはマナポーション製造機だよ。上に穴があるだろう? そこにマナポーションの原料になるシュルスクの果実を入れると自動的のマナポーションを作れるんだ』
「マナポーションが作れる機械だって? 俺のお母さんもマナポーションを作れるけど、聖属性の魔術師が魔力を込めながらシュルスクの果実を煮込んだ物がマナポーションになるんだよね」
『そう! 機械自身が聖属性の魔力を持っていて、煮込む過程を高速で短縮出来るんだ。上の穴からシュルスクの果実を投入すれば、あっという間にマナポーションが作れる仕組みになっているんだよ』
「ねぇ、ギルベルト。これって本当に高価なマジックアイテムじゃない? 確かマナポーションを作るには強い聖属性の魔術師が、時間を掛けて果実を煮込まなければならないのよね」
「そうだね……。この製造機があれば聖属性の使い手じゃなくても、誰でもマナポーションを作れるのか」
「レジェンドカプセルには反則的な効果を持つマジックアイテムが入っているのね」
俺はマナポーション製造機とホワイトベアの着ぐるみをマジックバッグに仕舞うと、ローラが最後の魔石をガチャに投入した。小さなレバーを回すと、透明のカプセルが飛び出した。ノーマルカプセルだろうか。ローラが目を輝かせながらカプセルを開けると、木製の盾が出てきた。俺はローラから盾を受け取ると、左手に盾を持ち、右手に木刀を持った。胴体を守る防具が欲しいところだが、盾があれば防御力が大幅に上がるだろう。
ガチャは武器や防具だけではなく、ぬいぐるみや猫耳の様な使い道の無いアイテムも作り出す事が出来るのだな。まだレベル1の新米冒険者シリーズだというのに、マジックバッグやマナポーション製造機の様な、反則的なマジックアイテムも出てくる。魔石ガチャの力があれば、最短ルートで冒険者として成り上がれるのではないだろうか。
「廃村内に巣食うスライムを狩って魔石を集めよう。ガチャから出てきたアイテムをヘルゲンで販売してお金を作るんだ。そうすれば宿代程度にはなるだろうからね」
「マナポーション製造機は売らないわよね?」
「勿論。特殊な力を持つマジックアイテムは売らずに取っておくよ」
「そう。冒険者になった初日に、ギルベルトと出会えたのは本当に運が良かったみたい」
「ローラも! ギルベルトが命懸けで助けてくれたから……。それに、ローラは人間になれたんだもん。ギルベルトと一緒に冒険者になる!」
ローラは微笑みながら俺を見上げると、俺の背中に抱きついた。俺はそんなローラの頭を撫でると、シャルロッテが頬を膨らませた。ゴールデンスライムとして生まれ、スライム仲間からは毎日暴行を受けていたのだとか。だが、回復魔法が使えるから、どんな攻撃を受けても命を落とす事は無かったらしい。
「ギルベルト。ローラのステータスをギルドカードで確認してみたら?」
「そうだね。一度見ておこうか」
懐から小さな銀色のギルドカードを取り出して確認する。従魔や召喚獣などは自分のギルドカードに自動的に追加される仕組みになっているのだ。
『LV.15 ゴールデンスライム ローラ』
属性:【聖】
魔法:ホーリー ヒール キュア
装備:レザーメイル 猫耳
「レベル15って。俺よりも遥かに高いんだけど……」
「ギルベルトのレベルはいくつ?」
「俺はレベル5だよ。シャルロッテも同じレベルだよね」
「私はさっきの戦闘でレベル7に上がったみたい。きっと沢山魔力を使ったからね」
「確か、レベルは魔力の強さを数値化した物なんだよね」
「そうよ。魔術師は魔力を使い続けて自身の魔力を強化する。剣士は己の剣の魔力を込め、鍛錬を続けて魔力を鍛える。どんな職業でも魔力を鍛える事が出来る。というのは私のお父さんの言葉なの」
「シャルロッテのお父さんは冒険者なのかい?」
「ええ。そうよ。まだ現役の冒険者なの」
シャルロッテが可愛らしい笑みを浮かべて俺を見上げると、ローラがシャルロッテの
頭を撫でた。
「可愛い白猫……!」
「私は白猫じゃないわよ……!」
「猫……」
ローラは暫くシャルロッテの頭を撫でると、シャルロッテは顔を赤らめて俺を見つめた。なんだか二人は姉妹の様で微笑ましいな。それから俺達は廃村を回り、スライムを倒し続けた。俺が前衛としてスライムの攻撃を受け、シャルロッテがウィンドショットを使って敵を攻撃を仕掛ける。防御しきれない攻撃が俺の体に当たるが、そういう時はローラが瞬時にヒールの魔法を唱えて癒やしてくれる。
遠距離攻撃が出来るシャルロッテと、優れた回復職のローラが居るからか、スライム相手の戦闘では負ける事は無かった。廃村を回って合計で三十体のスライムを狩ると、全身の筋肉が悲鳴を上げ始めたので、俺達は今日の狩りを終えてヘルゲンに戻る事にした。
元々剣も振った事が無かった村人の俺には、木刀と木製の盾を構えてスライムと戦うだけでも体力的に厳しいのだ。軽い木刀も振り続ければ次第に筋肉は疲れ始め、体力も低下する。木製の盾は軽いが、スライムの強烈な体当たりを防げば全身に強い衝撃を感じる。まずは体を鍛えて体力を付けた方が良さそうだな。
深い森をゆっくりと歩きながらヘルゲンを目指す。ローラは普段、廃村から出る事は無かったのか、暫く歩くと疲れてしゃがみ込んでしまった。
「スライムの時はこんなに歩く事が無かったから。疲れちゃった……」
「それじゃ、暫く休もうか」
「そうね。皆で堅焼きパンを食べましょう」
俺達は森の開けた場所で暫く休憩する事にした。ローラは元々スライムだったからか、森に居る虫を躊躇なく食べ始めた。それから地面に這いつくばり、野草を楽しそうに食べると、流石に人間としての常識を教えなければならない事に気がついた。美しい少女にしか見えないローラが、這いつくばりながら楽しそうに虫を食べている光景は見ていられるものではない。
「ローラ。こっちにおいで」
「うん!」
俺はローラを膝の上に座らせると、シャルロッテから受け取った小さな堅焼きパンを裂いてローラに渡した。ローラは小さな手で堅焼きパンを見つめると、初めて見る食べ物に興奮しながら、堅焼きパンを口に放り込んだ。それから噛まずに飲み込むと、目を輝かせて俺を見つめた。
「美味しい! パンって美味しいんだね!」
「お金が出来たらお腹いっぱい食べさせてあげるからね。シャルロッテ、堅焼きパンを分けてくれてありがとう」
「良いのよ。だけど、三人で堅焼きパン一つって……。本当にひもじいわね」
「そうだ。手に入れた魔石でガチャを回してみようか」
廃村を回ってスライムを狩り、合計で六個の魔石を集める事が出来た。俺はローラとシャルロッテに三つずつ魔石を渡すと、彼女達は満面の笑みを浮かべ、ガチャを回し始めた……。




