第三十九話「カーティスの道具屋」
今日から魔法都市ヘルゲンでの新たな生活が始まる。フロイデンベルグ公爵様から頂いたギルド区の土地で商売を始めるのだ。ヘルゲンの冒険者や市民達の生活を支えられる道具屋を作るのが俺とヴェロニカの目的だ。
シャルロッテとエリカとローラ。それからヴェロニカと執事のアンネさんと共に馬車に乗り、ギルド区に向かう。まさか土地を頂く事になるとは思わなかったが、魔石ガチャで得たアイテムを道具屋で販売すれば、地域の人達に良質なアイテムを提供する事が出来る。
駆け出しの冒険者を支援するために、低レベルの冒険者でも購入出来る低価格の武具を販売する道具屋にしたい。武具屋ではなく、冒険に必要の無いアイテムも扱う道具屋だ。ヴェロニカの好みも取り入れて、彼女が好む可愛いぬいぐるみや置物なんかも店に並べれば、雰囲気の良い道具屋を作れるのではないだろうか。
朝のヘルゲンはクエストに向かう冒険者や、行商の旅の準備をする商人等が忙しそうに支度をしている。魔法都市ヘルゲンは魔術師が多く暮らす町だが、商人や冒険者の数も多い。魔術師や冒険者、一般の市民でも気軽に利用出来る道具屋を作りたい。
魔石さえあればガチャの力でアイテムを得られるのだ。地域を守るためにモンスターを狩り、魔石を集めてガチャでアイテムを入手し、そのアイテムを道具屋で販売すれば、いくらでもお金を稼ぐ事が出来るだろう。
『お金儲けもいいけど、僕が生まれてきた目的は、迫害されているモンスターを助ける事なんだから、そこのところを忘れてもらっては困るよ』
「勿論。困っているモンスターが居れば助けるつもりだよ」
『ギルベルトなら第二のジェラルドになれると信じてるからね』
「ガチャは俺にハーレムを作って欲しいのかい?」
『そうだね。僕は可愛い子に囲まれて暮らしたいからさ』
「願望丸出しなんだな……」
それから暫く中央区を進むとギルド区に到着した。頂いた土地はギルド区の冒険者ギルドや魔術師ギルドが立ち並ぶエリアから少し離れた場所だ。冒険者ギルド・ユグドラシルまでは徒歩で十分程だろうか。立地も非常に良く、大きな屋敷を建てても土地が余りそうだ。
馬車から降りて土地を確認する事にした。広々とした土地には背の低い草が生い茂っており、ローラは自分の土地だと言わんばかりに地面に寝そべった。それからガチャが指環から元の姿に戻ると、ローラの隣に寝そべった。
ここから俺達の生活が始まるのか……。冒険者登録をしてから随分忙しく生きていたが、これからはこの土地でゆっくり暮らしたいものだな。
「本当に何もないところね」
「そうだね。だけどローラの魔法があれば一瞬で道具屋を建てる事が出来る」
「ローラは旅の間に地属性の魔法を習得したのよね」
「ああ。天地創造の杖から属性を授かり、何度も魔法の練習を続けて、土と石は自在に作り出せる様になったよ」
「本当にローラの魔法能力には驚かされるわ」
「シャルロッテもヴェロニカから水の魔法を教わったんだろう?」
「ええ。水が必要なら私が作り出すからいつでも言って頂戴ね」
「ありがとう。頼りにしているよ」
シャルロッテはモフモフした白い尻尾を楽しそうに振ると、笑みを浮かべて俺を見上げた。つり目気味の猫目にはサファイアの様な美しい瞳が輝いており。朝日がシャルロッテの白髪に反射し、何とも言えない美しさを醸し出している。
「ギルベルト。すぐに作業に取り掛かるのか?」
「そうするつもりだよ。一階を道具屋にして二階を住宅にするつもり」
「せっかくなら余った土地で農業でも始めたらどうだ?」
「小麦でも育てましょうか」
「それよりももっと良い物がある。アンネや、ギルベルトに種を」
「かしこまりました」
アンネさんが小さな革袋を持って近づいてくると、中には小さな白い種が入っていた。これはマナポーションの原料になるシュルスクの種だ。道具屋にシュルスクの木があれば、シュルスクの果実からマナポーションを量産する事が出来る。
マナポーション製造機があれば高速でマナポーションを量産出来るから、シュルスクさえあればいくらでもマナポーションを製造、販売出来るという訳だ。魔術師や冒険者向けに低価格のマナポーションを販売しよう。マナポーションの相場を町で調べ、相場よりも安く値段を設定し、駆け出しの冒険者でも購入出来るようにしよう。
特殊な力を持つマジックアイテムに関しては、販売する相手を良く選ばなければならないな。当面はマジックアイテムを販売せずに、通常のアイテムを販売するつもりだ。まずは魔石を集めてガチャでアイテムを増やし、商品を充実させなければならない。
「ローラ。早速道具屋を作ろうか」
「うん! ローラが好きに作っても良いの?」
「ああ。ローラのセンスに任せるよ」
ローラは天地創造の杖を地面に向けると、石の塊を作り出した。ローラは何度も悩みながら、理想の道具屋の形を模索し続けた。最初は土地一杯に正方形の巨大な家を建てたが、あまりにも大きすぎたので、もう少し小さくするようにと言うと、極端に小さな道具屋を作ったので、俺は周囲に建っている建物を参考にして作るようにと言うと、ローラは冒険者ギルドを参考にして、忠実に建物の形状を再現した。
結果、背の高い二階建ての道具屋が完成した。石造りだから非常に堅牢性が高く、窓には魔石が原料になっている魔石ガラスを嵌めた。魔石ガラスは高価だが、貴族の屋敷には大抵この魔石ガラスが使われている。通常の民家の窓には木の板が嵌っており、魔石ガラスを嵌めている民家は少ない。
ヴェロニカが折角なら豪華な道具屋を作ろうと言ったので、南側に面した壁には魔石ガラスを嵌める事にした。店は南向きなので日当たりも良く、道路に面しているので外からも道具屋の様子を確認する事が出来る。
それからローラは店の左右にシュルスクの種を植え始めた。元々この土地は農業に適さない栄養の少ない土地だったが、ローラが天地創造の杖を振ると、栄養豊かな美しい土が生まれた。それからシャルロッテとヴェロニカが土に雨を降らせると、シュルスクの種は瞬く間に成長を始めた。
天地創造の杖の力だろう、種は驚異的な速度で土から栄養を吸収し、瞬く間に背の低い木に成長した。この調子なら数日中には果実を生らせる事が出来るだろう。創造神の杖はやはり驚異的な力を持っているのだろう。杖の力だけではなく、土地からはローラの神聖な魔力を感じる。この土地で育つシュルスクの果実がマナポーションになり、ヘルゲンの人達の生活を支えるのだ。
それから室内に入ると、朝日がガラスを通して室内に差し込み、規則正しく並んだ石の表面を照らした。家具一つ置かれていない広々とした空間は無限の可能性を秘めている様な気がする。これからこの場所で様々なアイテムを販売し、ヘルゲンの人達の手に渡るのだ。
「ギルベルト。家具はどうするのだ?」
「家具もローラに作って貰おうかな。本当は木の家具が欲しいけど、今はお金がないから」
「まぁ、暫くは石の家具でも良いだろう」
それからローラは壁に杖を向けて地属性の魔力を放出し、石の棚をいくつも作り上げた。壁際に棚を設置してから、店の奥にカウンターを作った。店内にアイテムを飾るための棚を設置すると、俺はアイテムを並べる事にした。
手持ちのアイテムの中から売れそうな物を探し、ガーゴイル人形を三つ、スケルトンの置物を棚に並べ、それから猫耳を二つとホワイトベアのぬいぐるみを置いた。値段はガーゴイル人形とスケルトンの置物が二百ゴールド。猫耳は百五十ゴールドで、ホワイトベアのぬいぐるみが五百ゴールド。
マジックバッグの中にはゴブリンやケンタウロスを倒して得た武器が入っていたので、不必要なアイテムを精算してお金を作る事にした。ヴェロニカとアンネさんは一度屋敷に戻る事になり、俺はエリカとローラに店番を任せ、シャルロッテと共に戦利品を精算する事にした……。




