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第三十五話「ギルベルトとシャルロッテ」

 戦意を喪失したゴルツが力なく立ち上がり、破れた壁を愕然とした表情で見つめ、フェスカを追う様に外に出ると、ギルドメンバー達は熱狂的な歓声をあげた。


「新入りがフェスカとゴルツを倒したぞ!」

「スライムハンターがフェスカを圧倒した! 二種類のエンチャントを同時に掛けるなんて! レベル40以上の魔術師でも難しい筈だぞ」

「素晴らしい戦いだった! 最後の魔法はなんだ? 融合魔法か? 白猫も強いじゃないか!」


 すっかり興奮したギルドメンバー達が俺達を取り囲むと、俺は改めてシャルロッテに手を差し出した。彼女はゆっくりと俺の手を握ると、ローラとエリカが俺を抱きしめた。


「ありがとう……。ギルベルト。同胞を仇を討ってくれて……」

「どういたしまして。少しは気が晴れたかな?」

「ええ! あんなに豪快な勝ち方をするのだからね。本当に嬉しかったわ」

「ギルベルト。また女が増えたの……?」

「シャルロッテ、こちらは戦士のエリカだよ」


 エリカはシャルロッテに感謝の言葉を述べると、シャルロッテは微笑みながらエリカと握手を交わした。ローラは久しぶりに会うシャルロッテに何度も頬ずりをし、シャルロッテの頬に口づけをした。


 シャルロッテはローラの愛情表現に戸惑いながらも、幸せそうにローラを抱き締めている。それからヴェロニカ様とアンネさんが近づいて来ると、俺達は深々と頭を提げてお礼を述べた。


「久しぶりにギルドに戻って来たと思ったら、私に会いに来る前に決闘をするとはな! その様子だと上手く事を運んだのだろう?」

「お久しぶりです、ヴェロニカ様。はい。我々の思惑通り、戦士達の保護を完了しました」

「やはりな。ここではゆっくり話す事も出来ないだろう。これから私の屋敷に来るのだ。今日は宴にしようじゃないか!」

「それは良い考えですね。ヴェロニカお嬢様」


 俺達はヴェロニカ様の提案を受け入れ、今日はフロイデンベルグ公爵様の屋敷で宴が開かれる事になった。ヴェロニカ様はギルドを出る前に賭けで儲けたお金を受け取ると、満面の笑みを浮かべて俺を見上げた。


 俺の勝利に一万ゴールドものお金を賭けてくれるとは。俺は本当にヴェロニカ様から信用されているのだな。ローラは久しぶりに会うシャルロッテの手を握りながら、楽しそうに旅の話をしている。


 ギルドを出てフロイデンベルグ公爵家に向かう。ヴェロニカ様は俺の隣に並び、微笑みながら俺を見上げた。つり目気味の三白眼にはサファイアの様に澄んだ瞳が輝いている。何と美しい少女だろうか……。金色の艶のある髪に日光が当たって綺麗に輝いている。


「しかしギルベルト。いつの前にエンチャントを覚えたのだ? まさか、二種類のエンチャントを同時に使用するとは。熟練の魔術師でも二種類の属性を同時に制御するのは難しいのだぞ」

「エンチャントはミノタウロスの戦士、バシリウス様から教えて貰いました」

「ミノタウロス……? 一体何を言っているのだ……?」

「レッサーミノタウロス達の長がミノタウロスだったのです。俺も最初は驚きましたが、彼はとても気さくで、俺の召喚獣になってくれたんですよ」

「馬鹿な! 幻獣クラスのモンスターが自ら召喚獣になる事を選択するとは! 信じられない話だが、それは本当なのか……? 私はギルベルトを信じているが……」


 確かに、俺の様な駆け出しの冒険者が幻獣クラスのモンスターを召喚獣にしているという話は信じられないだろう。俺は懐からギルドカードを取り出してヴェロニカ様に見せた。


『LV.18 冒険者 ギルベルト・カーティス』

称号:幻獣の契約者

属性:【火】【雷】

魔法:ファイア エンチャント・ファイア サンダー エンチャント・サンダー

装備:錬金術師の指環 守護の指環 守護の指環 騎士のガントレット ライトメイル 羽根付きグリーヴ ブロードソード グラディウス 鉄の玉 マジックバッグ

加護:ベルギウスの加護(魔石ガチャ・モンスター封印) バシリウスの加護(火・雷属性魔法習得速度上昇)

効果:物理防御力上昇 力上昇 移動速度・跳躍力上昇


『LV.25 魔術師 ローラ』

称号:天地創造の魔術師

属性:【聖】【地】

魔法:ホーリー ヒール キュア リジェネレーション アース ストーン

装備:天地創造の杖 金のローブ レザーブーツ 猫耳 守護の指環 守護の指環

効果:物理防御力上昇


『LV.23 戦士 エリカ』

属性:【雷】

魔法:サンダー エンチャント・サンダー

装備:ギルベルトの服


『LV.65 戦士 バシリウス』

属性:【火】【雷】

魔法:ファイア ファイアボール エンチャント・ファイア サンダー サンダーボルト エンチャント・サンダー

装備:ランス ラウンドシールド


「レベル65の戦士? この者がミノタウロスという訳か。人間に加護を与える程の能力の持ち主か……。誠に高位なモンスターと契約を結ぶ事が出来たのだな。幻獣の契約者か。こんな称号は一度も見た事がないぞ!」

「ヴェロニカお嬢様。ローラ様の項目を見て下さい。この杖はもしかすると創造神ベネディクトの杖ではありませんか?」

「天地創造の杖だと? ドーレ大陸を創造した神の杖か? 魔石ガチャとは無限の可能性を秘めるマジックアイテムなのだな……。強力な力を持つ杖は使用者を選ぶ。杖はローラの神聖な魔力に惹かれて、再びこの世に姿を現したのかもしれんな……」

「幻獣の契約者に、天地創造の魔術師。ヴェロニカお嬢様が目を掛けたお二人は既に立派な冒険者に成長したのですね」

「うむ。やはりギルベルトとローラは偉大な冒険者になる素質があると思っていた」


 ヴェロニカ様とアンネさんはギルドカードを食い入るように見ている。俺とローラが褒められたからだろうか、エリカは気分を良くして俺の手を握った。そんな様子をヴェロニカ様とシャルロッテは不満気に見つめている。


 暫く歩くと屋敷に到着したので、アンネさんはメイド達を呼んで宴の支度を始めた。支度が終わるまではシュルスクの木がある中庭で待つ事にした。久しぶりに再開したシャルロッテは楽しげに尻尾を振りながら近づいてきた。


「ギルベルト。元気にしていたの?」

「ああ。随分忙しかったけど、実りある旅だったよ。シャルロッテが用意してくれたブラックウルフの肉、ミノタウロスのバシリウス様は大喜びだったよ」

「それは良かったわ。ギルベルトの役に立てたのだから……」

「ああ。俺を信じてくれてありがとう。やはり俺達の考えは正しかった。中立の立場に居るモンスターを殺す事は間違っているんだ。今回の旅でレッサーミノタウロス達と寝食を共にして、彼等の心の広さや優しさを実感したよ」

「ギルベルトは己の意思を貫いたのね」

「俺達の意思だよ。シャルロッテは俺を信じて待っていてくれたのだろう?」


 シャルロッテは恥ずかしそうに猫耳を垂らし、俺を見上げると、彼女の可憐な姿に胸がときめいた。それから小さく頷くと、俺は心が暖かくなった。シャルロッテは今回の旅に同行しなかったが、俺達を信じてブラックウルフの肉を用意してくれた。


 離れていても俺達の心は近くにあった。俺達はお互いの事を想いながら、今日まで鍛錬を積んで過ごしてきたのだ。


「シャルロッテ。随分魔法の腕が上達したみたいだけど、一体何があったんだい?」

「私、ヴェロニカ様から魔法を教わっているの。ギルベルトとローラと別れてから、何度もヴェロニカ様に頼んでやっと魔法を教えて貰える事になったのよ」

「やっぱりね。ゴルツとの戦いでヴェロニカ様と目配せをしていたから、なんとなく気づいていたんだ」

「ギルベルトは本当に強くなったのね。バシリウス様というミノタウロスと出会ったから?」

「そうだよ。バシリウス様が俺を鍛えてくれたから、短期間で強くなれたんだ」


 大切な仲間を守れる男になるために、バシリウス様の過酷過ぎる訓練に耐えたのだ。短い旅の間で、何度も死を意識する程の試練を乗り越えてきた。スライムの群れに投げ込まれたり、ゴブリンの大群相手にたった一人で勝負を挑んだり。


 死を意識する度に、俺はヴェロニカ様やシャルロッテ、アンネさんの事を思い出して試練に耐えた。俺を信じて待ってくれる仲間が居る限り、俺はどんな試練にだって耐えてみせる。


 生まれ故郷では村人達から『役立たずのギルベルト』と呼ばれ、劣等感を感じていた俺は、自分を変えるために魔法都市ヘルゲンに来た。魔法都市での生活を決意する時に、この先にどんな障害があっても、己の力で人生を切り開くと心に誓ったのだ。


 フェスカやゴルツとは意思が衝突する事はあったが、彼等の様な俺の人生を妨げる障害があったからこそ、俺は成長する機会を得る事が出来たと思っている。


「ギルベルト。会いたかったわ……」

「シャルロッテ……。ありがとう。俺も会いたかったよ! やっぱりシャルロッテが居ないと盛り上がらないからな」

「ローラも白猫ちゃんに会いたかった!」

「もう。白猫じゃないったら」

「ギルベルト。シャルロッテは私の試練に耐え、見事水属性の魔法を習得したのだぞ。私はシャルロッテを殺す勢いで魔法を教えていたのだが、それでもシャルロッテが弱音を吐く事はなかった。『ギルベルトは必ず強くなるから、その時に私が支えられる様に強くなるんです』って何度も言っていたぞ」

「ちょっと……! ヴェロニカ様! それは秘密です!」

「まぁまぁ、本当の事だから良いではないか。私もギルベルトに会いたかったぞ。それにローラにもな」


 素敵な仲間と出会えて、心の底から幸福を感じる。これが俺の守るべき仲間達なんだ。こんな仲間を求めていたんだ。この先の人生で何があっても、彼女達を大切にして生きてゆこう。


 それから俺はシュルスクの木の前で退屈そうに座っているエリカの隣に腰を降ろした……。

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